男性の鼠径部(そけいぶ)=足の付け根の「しこり」「膨らみ」「痛み」には、鼠径ヘルニア(脱腸)のほか、精索・陰嚢まわりの病気、リンパ節、股関節など複数の原因があります。鼠径ヘルニアは男性に多く、生涯のうちに発症するリスクは男性で27〜43%、女性で3〜6%と報告されています[1]。とくに「立つと出て、横になると引っ込む膨らみ」は、鼠径ヘルニアで多くみられる症状パターンのひとつです(自己判断はせず、受診での確認が必要です)。膨らみが戻らず強い痛みや吐き気を伴う場合は、嵌頓(かんとん)の疑いがあるため至急受診が必要です。このページでは症状別に、考えられる原因と受診の目安を解説します。
「足の付け根が痛い」「お風呂で触ると、片方だけ膨らんでいる気がする」「しこりのようなものがあるが、痛くないので様子を見ている」——鼠径部の違和感は、こうした形で気づかれることがよくあります。
鼠径部の症状には、筋肉や股関節の問題から、鼠径ヘルニア(脱腸)のように手術が唯一の根本治療とされる病気まで、さまざまな原因があります。
緊急の対応が必要になるケースは限られますが、見逃してはいけないサインもあります。この記事では、「痛み」「しこり」「膨らみ」の3つの症状別に、考えられる原因と受診の目安を解説します。
鼠径部とはどこ?
鼠径部(そけいぶ)とは、太ももの付け根の前面、下腹部と脚の境目のあたりを指します。「鼠蹊部」「そけい部」「鼠けい部」と書かれることもありますが、いずれも同じ部位です。左右の脚の付け根に1か所ずつあり、ちょうどビキニラインに沿った部分です。
この部分の皮膚の下には、次のような構造が集まっています。
- 鼠径管(そけいかん):腹壁を斜めに貫くトンネル。男性では精索、女性では子宮円靭帯が通る
- 血管・神経:脚へ向かう太い動静脈や神経
- リンパ節:脚や下腹部のリンパが集まる鼠径リンパ節
- 股関節:鼠径部の奥に位置する
構造が密集しているため、「どの構造に問題が起きたか」で症状も原因も変わります。これが、鼠径部の症状の原因が多岐にわたる理由です。
症状別セルフチェック
こんな症状はありませんか? 近いものから確認してみてください
- 立った時やお腹に力を入れた時に膨らみ、横になると引っ込む
- 触れると硬い「しこり」があり、大きさが変わらない
- 膨らみやしこりは触れないが、痛み・違和感だけが続く
- 膨らみが戻らず、強い痛み・吐き気がある(→ 至急受診)
鼠径ヘルニア(脱腸)の最大の特徴は「立つと出て、横になると引っ込む」ことです。この図は受診の目安であり、診断ではありません。当てはまらない場合でも症状が続くときは医療機関にご相談ください。
「膨らみ」がある — 立つと出て、横になると引っ込む
| チェック項目 | 当てはまる場合に考えられること |
|---|---|
| 立った時・お腹に力を入れた時に膨らみ、横になると引っ込む | 鼠径ヘルニア(脱腸)の可能性が高い、典型的にみられるパターン |
| 咳やいきみで膨らみが大きくなる | 鼠径ヘルニアの可能性 |
| 膨らみが戻らず、強い痛み・吐き気を伴う | 嵌頓(かんとん)の疑い — 至急受診(後述) |
| 女性・高齢で、鼠径部のやや下(太もも寄り)に膨らみ | 大腿ヘルニアの可能性(嵌頓しやすいタイプ) |
「出たり引っ込んだりする膨らみ」は、腸などの内臓が筋膜の隙間から皮膚の下に出てくる鼠径ヘルニアで最も特徴的とされる症状のひとつです。国内外の診療ガイドラインでも、成人の鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、根本的な治療は手術のみとされています[1][2]。
症状のない場合に経過観察(watchful waiting)を選ぶことはありますが、その場合も大多数の方は最終的に手術が必要になると報告されています[1]。
鼠径部のヘルニアは、決してまれな病気ではありません。生涯のうちに経験する割合は男性で27〜43%、女性で3〜6%とされ[1]、世界では年間2,000万件以上の手術が行われています[1]。
→ 詳しくは鼠径ヘルニア(脱腸)の解説ページへ
「しこり」がある — 触れると硬い、大きさが変わらない
| チェック項目 | 考えられること |
|---|---|
| 押すと痛む、数日〜数週間で気づいた | 鼠径リンパ節の腫れの可能性(脚・陰部の傷や感染に伴うことが多い) |
| 痛みがなく、徐々に大きくなる | 粉瘤・脂肪腫などの皮下のできものの可能性/まれにリンパ節の病気 |
| 大きさが体勢で変わる(横になると小さくなる) | しこりではなく鼠径ヘルニアの可能性 |
鼠径部のしこりには良性のものが少なくありませんが、「痛くないから大丈夫」とは限りません。数週間たっても消えない、大きくなってくるしこりは、一度医療機関で確認してもらいましょう。
「痛み」だけがある — 膨らみやしこりは触れない
| チェック項目 | 考えられること |
|---|---|
| 運動時・運動後に痛む(スポーツをする方) | 筋肉や腱の炎症・損傷の可能性(いわゆるグロインペイン症候群) |
| 歩き始めや立ち上がりで痛む、股関節が動かしにくい | 変形性股関節症など股関節の病気の可能性 |
| ピリピリ・チクチクした痛みやしびれ | 神経由来の痛みの可能性 |
| 立ち仕事の後に重だるい・突っ張る感じ | 初期の鼠径ヘルニアでも起こりうる |
膨らみがなくても、鼠径ヘルニアの初期には「重だるさ」「突っ張り感」だけを自覚することがあります。痛みが続く場合は、原因の見極めが大切です。
また、部活動やスポーツをしている10代の方の鼠径部の痛みは、筋肉・腱の使いすぎによるものが多い一方、若い方にも鼠径ヘルニアは起こります。膨らみを伴う場合は、年齢にかかわらず外科で確認するのがおすすめです。
男性の鼠径部で特に多いのは?
鼠径ヘルニアは男性に多い病気です。国際ガイドラインでは、生涯のうちに鼠径ヘルニアを発症するリスクは男性で27〜43%、女性で3〜6%と報告されています[1]。足の付け根の膨らみに気づいた男性では、鼠径ヘルニアが原因の候補として上位に挙がります(自己判断はせず、診察での確認が必要です)。
男性の鼠径管には精索(せいさく)——精巣へつながる血管と精管の束——が通っています。このため鼠径ヘルニアの膨らみが精索に沿って下がり、陰嚢(いんのう)まで及ぶことがあります。「立つと足の付け根から陰嚢にかけて膨らみ、横になると小さくなる」という変化は、外科での確認が必要なパターンです。
いっぽう、鼠径部から陰嚢にかけての腫れ・しこりには、鼠径ヘルニア以外の原因もあります。代表的なものは次のとおりです。
- 精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう):精索の静脈が拡張したもの。立つと目立ち、横になると軽くなることがあります
- 陰嚢水腫・精索水瘤(すいりゅう):袋状の構造に液体がたまったもの。押してもお腹の中には戻りません
- 精巣上体炎:痛みや発熱を伴うことがあります
- 鼠径リンパ節の腫れ:脚や陰部の炎症・感染に伴って腫れることがあります
これらは診察と超音波(エコー)検査で区別します。ヘルニアかどうかで受診先が変わるため、判断がつかない場合はまず外科での確認をおすすめします。
女性の鼠径部の症状については、女性の鼠径部・足の付け根の痛みで、大腿ヘルニア・ヌック管水腫を含めて解説しています。「押すと痛いしこり」の見分け方は足の付け根のしこりをご覧ください。
どんなときは至急受診が必要?——危険なサイン(嵌頓)
次の症状がそろった場合、ヘルニアの嵌頓(かんとん)——飛び出した腸が締めつけられて戻らなくなった状態——の可能性があります。
放置すると腸の血流が悪くなり、緊急手術が必要になることがあります。
⚠ 嵌頓を疑うサイン
- 膨らみが押しても戻らない
- 膨らみが硬く、強い痛みがある
- 吐き気・嘔吐、お腹の張りを伴う
様子を見ず、速やかに救急外来の受診または救急車の要請をご検討ください
何科を受診すればいい?
| 症状 | 受診先の目安 |
|---|---|
| 出たり引っ込んだりする膨らみ | 外科・消化器外科(鼠径ヘルニアの診療科) |
| 皮膚のしこり・できもの | 皮膚科または外科 |
| 陰嚢まで及ぶ膨らみ | 外科・消化器外科(陰嚢ヘルニアの可能性) |
| 精巣・陰嚢そのものの腫れ・痛み | 泌尿器科 |
| 股関節の動きに伴う痛み | 整形外科 |
| どれか判断がつかない | まずは外科または近くのかかりつけ医へ |
診察では、立った状態でお腹に力を入れて膨らみを確認したり、超音波(エコー)検査を行ったりします。痛みを伴う検査は基本的にありません。
典型的な症状・所見があれば、大多数は診察のみで診断が確定できるとされています[1]。
執筆者より(高宮・麻酔科専門医):これまで勤務してきた病院で麻酔科医として手術に立ち会う中で、症状に気づいてから受診までに時間が空いてしまった方を少なからず見てきました(当院開院前の、これまでのキャリアにおける経験です)。鼠径部の症状は場所柄相談しづらいものですが、診察自体は短時間で済みます。気になる症状があれば早めの受診をご検討ください。
いつ受診すればいい?——受診の目安まとめ
- 至急(当日):膨らみが戻らない+強い痛み・嘔吐 → 救急受診
- 早めに(数日〜1週間以内):出たり引っ込んだりする膨らみに気づいた/しこりが大きくなってくる
- 様子を見つつ受診を検討:運動時だけの痛みが2週間以上続く/原因のわからない違和感が続く
鼠径ヘルニアの膨らみは、放置しても小さくなることはなく、時間とともに徐々に大きくなるのが一般的です。
「まだ痛くないから」と先延ばしにせず、日常生活に支障が出る前の受診をおすすめします。
当院について
吉祥寺日帰り手術クリニックは、鼠径ヘルニアをはじめとする日帰り手術を専門とするクリニックとして、2026年11月に吉祥寺(JR吉祥寺駅 徒歩2分)に開院予定です。
外科専門医と麻酔科専門医の2名体制で、腹腔鏡による鼠径ヘルニア手術(TAPP法)を日帰りで行う予定です。
※開院時期・診療体制は、保健所への開設届出等の手続き状況により変更になる場合があります。
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よくある質問
Q. 鼠径部とはどこですか?
太ももの付け根の前面、下腹部と脚の境目のあたりです。左右に1か所ずつあり、ビキニラインに沿った部分にあたります。
Q. 足の付け根の膨らみは自然に治りますか?
膨らみの原因が鼠径ヘルニアである場合、成人では自然に治ることはないとされています。根本的な治療は手術です。ただし膨らみの原因はほかにもあるため、まずは診察で原因を確認することが大切です。
Q. 痛くないしこりは放置してもいいですか?
痛みの有無だけでは良性・悪性の判断はできません。数週間たっても消えない、または大きくなってくるしこりは、医療機関の受診をおすすめします。
Q. 何科に行けばいいですか?
出たり引っ込んだりする膨らみは外科・消化器外科、皮膚のできものは皮膚科、股関節の動きに伴う痛みは整形外科が目安です。判断がつかない場合は外科またはかかりつけ医にご相談ください。
Q. 女性でも鼠径ヘルニアになりますか?
なります。男性より頻度は低く、生涯リスクは女性3〜6%、男性27〜43%と報告されています[1]。女性は膨らみが目立ちにくく発見が遅れやすいこと、嵌頓しやすい大腿ヘルニアが比較的多いことに注意が必要です。詳しくは女性の鼠径部・足の付け根の痛みをご覧ください。
Q. 中学生・高校生でも鼠径部の痛みや膨らみは起こりますか?
起こります。部活動などスポーツをしている年代では筋肉・腱の使いすぎによる痛みが多い一方、若い方にも鼠径ヘルニアはみられます。膨らみを伴う場合は外科の受診をご検討ください。
Q. 受診するとどんな検査をしますか?
視診・触診(立った状態でお腹に力を入れて確認)と、必要に応じて超音波(エコー)検査を行うのが一般的です。痛みを伴う検査は基本的にありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断や治療方針に代わるものではありません。
参考文献
- HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia. 2018;22(1):1-165. doi:10.1007/s10029-017-1668-x(PMID: 29330835)
- Stabilini C, van Veenendaal N, Aasvang E, et al. Update of the international HerniaSurge guidelines for groin hernia management. BJS Open. 2023;7(5):zrad080. doi:10.1093/bjsopen/zrad080(PMID: 37862616)
文献情報は PubMed(米国国立医学図書館)の書誌データに基づきます(2026年7月確認)。