鼠径ヘルニア(脱腸)


鼠径ヘルニア(脱腸)は、吉祥寺日帰り手術クリニック(2026年11月開院予定)で日帰り手術ができる予定です。外科専門医が腹腔鏡(おなかの中を見る小さなカメラ)を使って手術し、麻酔科専門医が麻酔を担当する予定です。手術は約30〜90分で終わり、傷は3〜12mmが3つだけです。手術のあと1〜2時間で帰れる見込みです。健康保険が使えて2026年12月の保険診療開始後は3割負担で約8万〜13万円(麻酔・検査込み)となる見込みです。デスクワークなら次の日から仕事に戻れる方が多いです。
鼠径ヘルニアは、足の付け根のおなかの壁が弱くなって、おなかの中の腸が皮膚の下に飛び出す病気です。「脱腸」とも呼ばれます。日本では年間約16万人がこの手術を受けています。
男性に多く、4人に1人がかかるといわれています。40歳をすぎると増えてきます。自然に治ることはないので、治すには手術が必要です。
▶ 症状から調べたい方は「鼠径部(足の付け根)の痛み・しこり・膨らみ|原因と受診の目安」もご覧ください。
▶ 費用の詳細は「鼠径ヘルニアの手術費用|日帰り手術の自己負担と高額療養費」をご覧ください。
この手術のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手術時間 | 約30〜90分 |
| 麻酔 | 全身麻酔(眠っている間に終わります) |
| 入院 | なし(手術のあと1〜2時間で帰れます) |
| 傷 | 3〜12mmの小さい傷が3つだけ |
| 仕事復帰 | デスクワーク→次の日、体を使う仕事→1週間〜1ヶ月 |
| 費用 | 2026年12月の保険診療開始後、3割負担で約8万〜13万円の見込み(麻酔・検査込み・保険が使えます) |
セルフチェックとリスク
こんな症状ありませんか?あてはまるものをチェックしてみてください
- 足の付け根にふくらみがある
- 力むと出る・横になると消える
- 鈍い痛みや違和感がある
- ふくらみが徐々に大きくなった
- 長時間立つと重い感じがする
なりやすい人
40歳以上の男性
加齢で腹壁が弱くなりやすい
重いものを持つ方
おなかに強い力がかかる
咳・便秘がつづく方
おなかに力がかかり続ける
太っている方
おなかへの負担が大きい
ヘルニアの家族歴がある方
体質が似ていることがある
放っておくと怖いことも
鼠径ヘルニアは自然に治ることはありません。放っておくと、2つの危険な状態になることがあります。
正常な状態 = 壁がしっかり腸を支えている
足の付け根のおなかの壁(筋肉)がしっかりしていて、腸は正しい位置におさまっています。ふくらみや違和感はありません。

鼠径ヘルニア = 腸が飛び出しはじめる
おなかの壁が弱くなり、すきまから腸が皮膚の下に飛び出した状態です。立ったり力んだりするとふくらみが出て、横になると引っ込みます。この段階で手術すれば日帰りで治せます。

嵌頓(かんとん)= 腸がはまって戻らない
飛び出した腸が、すきまに「はまって」もとに戻らなくなった状態です。押しても引っ込まず、足の付け根がかたくふくらんだままになります。
たとえると:指輪がきつくて抜けなくなった状態。指輪の奥の指先に血が通いにくくなるように、はまった腸にも血が届きにくくなります。

絞扼(こうやく)= 腸の血が止まる
嵌頓が続くと、はまった腸への血流が完全に止まります。血が届かなくなった腸は数時間で壊死(えし)しはじめます。壊死した腸からは細菌が漏れ出し、腹膜炎や敗血症など命にかかわる状態になることがあります。
たとえると:輪ゴムで指をきつく縛りつづけた状態。最初は紫色になり、やがて感覚がなくなります。腸でも同じことが起き、放置すると腸を切除する大きな手術が必要になります。

夜間・休日でも受診してください。様子見は危険です。
嵌頓・絞扼はある日とつぜん起こります。前ぶれがないことも多いので、ふくらみに気づいた段階で早めに受診してください。早い段階で手術すれば、日帰りの小さな手術で治せます。
鼠径ヘルニアはどうやって診断するの?
鼠径ヘルニアの診断で最も重要なのは、特殊な機械でも血液検査でもなく、医師が足の付け根を直接触れて確認する身体診察です。これは日本ヘルニア学会の2024年ガイドラインでも、診断の標準的方法として位置づけられています。理由はシンプルで、鼠径ヘルニアは「腸が腹壁の隙間から押し出されるかどうか」が本質であり、その動きを最も鋭敏に捉えられるのが、経験を積んだ医師の指の感覚だからです。MRIやCTといった大がかりな機械を使わなくても、3つのステップでほとんどのヘルニアは正確に確認できます。所要時間は約5分です。
5分で終わる、3ステップの身体診察
仰向けで触れる
最初にベッドに仰向けで寝ていただき、医師が足の付け根を軽く触れます。仰向けの姿勢では、はみ出していた腸が自然にお腹の中に戻りやすいため、ヘルニアの「入り口(ヘルニア門)」の位置と大きさが確認しやすくなります。押されて違和感を覚える方はいますが、強い痛みを伴うことはほとんどありません。
立った状態で触れる
次に、立った姿勢で同じ場所を触れます。立つことで重力がお腹の中の臓器を下方向に引き下げ、仰向けでは目立たなかった軽度のヘルニアもふくらみとして現れます。仰向けと立位の両方で診ることで、見落としを防ぎます。
軽く息んでいただく(バルサルバ手技)
最後に、口を閉じて軽くお腹に力を入れていただきます。咳をする、便を出すときのような感覚で、ほんの数秒間の動作です。お腹の中の圧力が一時的に上がることで、ヘルニアが押し出される瞬間を医師の指でとらえます。これによって、普段は引っ込んでいて気づきにくい初期のヘルニアも見つけることができます。
なぜ画像検査を最初から行わないのか
MRIやCTは確かに体内の様子を画像で示す優れた検査ですが、鼠径ヘルニアの診断においては必ずしも第一選択ではありません。費用と時間がかかるうえ、横になって撮影するため、立位で初めて現れるタイプのヘルニアを見逃す可能性があるからです。日本ヘルニア学会のガイドラインでも欧州ヘルニア学会(EHS)の国際ガイドラインでも、まず身体診察を行い、それでも判断に迷う場合のみ補助的に超音波検査やMRIを併用するという順序が推奨されています。当院でも、必要と判断した場合に限り超音波検査を追加します。
プライバシーへの配慮
足の付け根は性器に近いため、診察に抵抗を感じる方は少なくありません。当院では、診察は完全個室で行い、必要な範囲以外は診察用のタオルで覆うことで、不要な露出を避ける運用にしています。また、立ち会うスタッフの性別についてもご希望をお伺いします。診察時間は短く、声をかけながら次の動作をご説明しますので、いきなり何かをされて驚くということはありません。
※ 本記載は日本ヘルニア学会「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン2024(第2版)」および欧州ヘルニア学会(EHS)ガイドラインの内容に基づいています。診察結果や個別の状況によって対応は異なりますので、詳しくは医師にご相談ください。
いつ手術を決断するべき?
「ふくらみに気づいたら、すぐに手術しないといけないのか」は、もっとも多くいただくご質問です。結論として、痛みがほとんどなければ慌てて手術する必要はありません。経過観察は安全な選択肢のひとつです1。
ただし鼠径ヘルニアは自然に治らないため、長期追跡では10年で約68%の方が最終的に手術を選んでいます。切り替えの主な理由は痛みの増悪です。つまり判断は「するか・しないか」ではなく「いつするか」であることが多い、というのが実際のところです。
手術を考える4つのサイン
押しても戻らなくなった・強い痛みや吐き気を伴う場合は、嵌頓(かんとん)の可能性があります。経過観察の対象ではないため、救急を受診してください。
経過観察を続けてよい場合の判断、切り替え率の推移、待つことのコストについては、鼠径ヘルニアは様子を見ていい?経過観察と手術の判断で、国際ガイドラインと臨床研究の数値をもとに詳しく解説しています。
女性の鼠径ヘルニア
鼠径ヘルニアは男性に多く、男女比は約8:1です。数が少ないぶん、女性では見つかるまでに時間がかかることがあります。
女性では大腿ヘルニアの合併に注意が必要です
足の付け根のふくらみが、鼠径ヘルニアではなく大腿ヘルニアであることがあります。大腿ヘルニアは女性に多く、飛び出した腸が戻らなくなる嵌頓(かんとん)を起こしやすい性質があります。国際ガイドライン(HerniaSurge 2018)では、女性の鼠径部ヘルニアでは大腿ヘルニアの合併が少なくなく、術前の診察だけでは見つからないことがあるため、腹膜前アプローチ(TAPP法・TEP法)が有用とされています1。
当院が主術式とするTAPP法は、おなかの内側から鼠径部全体を観察するため、鼠径ヘルニアと大腿ヘルニアの有無を同じ視野で確認し、必要に応じて同時に修復できます。
「婦人科の病気かもしれない」と迷う方へ
女性の鼠径部のふくらみは小さく目立たないことがあり、「足の付け根が張る」「立っていると重い」といった違和感だけのこともあります。婦人科疾患やリンパ節の腫れと区別がつきにくく、どこを受診すればよいか迷う方も少なくありません。診察では、仰向けと立った状態の両方で確認します。
関連ページ:女性の鼠径部・足の付け根の痛み/足の付け根のしこり
ご高齢の方の鼠径ヘルニア
年齢だけで手術の可否が決まることはありません。判断の中心になるのは、併存疾患・服用中のお薬・全身状態です。
「様子を見る」ことがかえって負担になる場合があります
鼠径ヘルニアが嵌頓すると、緊急手術が必要になります。ご高齢の方では、この緊急手術の負担が、予定を立てて行う待機的な手術より大きくなることが報告されています。
システマティックレビューでは、待機的な鼠径部ヘルニア手術の死亡率が約0.1%であるのに対し、緊急手術では1.7〜7%と報告されています9。緊急手術の合併症率は21.2〜28.9%で、80歳以上ではさらに高い死亡率を報告した研究もあります9。
これは「急いで手術を受けてください」という意味ではありません。症状のある鼠径ヘルニアについて、予定を立てて手術する選択肢と様子を見る選択肢を比べるときの材料としてお読みください。判断は診察と検査のうえで、ご本人・ご家族と一緒に決めていきます。
術前に確認すること
心臓・呼吸器の持病、糖尿病、腎機能、認知機能、そして血液をさらさらにするお薬(抗血栓薬)の服用の有無を確認します。お薬は自己判断で中止せず、必ず診察時にお知らせください。
麻酔科専門医が全身状態を評価し、日帰りで行うことが適切でないと判断した場合は、入院設備のある医療機関へご紹介する方針です。
決断したら、いつ手術を受けられる?
「いつ手術を考えるべきか」が分かったら、次に立ち上がる問いは「では、どのくらいで実施できるか」です。痛みを抱えている方ほど、決断から実施までの時間が短いほど価値があります。当院は日帰り手術専門のため、診察から手術までのタイムラグを最小化する体制を整えています。条件が揃えば、最短で診察の翌日に手術を行うことも可能です。
全身麻酔は強力で有効な麻酔方法ですが、安全に行うために 麻酔科専門医による術前評価 が必須です。当院では以下の項目を診察当日に確認し、すべてクリアした方に限り、翌日の手術が可能となります。
- 全身状態の確認:心臓・呼吸器・腎臓・肝臓などの合併症の有無
- 術前検査の完了:血液検査、心電図、必要に応じて胸部レントゲン・心エコー
- 服用薬の評価:抗血小板薬・抗凝固薬・糖尿病治療薬などの中止可否と中止期間
- アレルギー・既往歴の確認:麻酔薬・抗生剤・ラテックスへの反応歴
- 身体所見の確認:気道評価(Mallampati class)、BMI、最後の食事時刻
- 同意取得と絶飲食指示:手術前6〜8時間の絶食、2時間前までの飲水制限の遵守
追加検査や薬剤の調整が必要な方、合併症の精査が必要な方は、安全のために手術日を数日〜1〜2週間後にずらすことがあります。これは安全性を最優先するための医学的判断であり、決して手続き上の遅延ではありません。
なぜこのスピードで対応できるのか
必要な検査をその日のうちに実施し、麻酔科専門医の評価まで完結します。診察時に手術日を確定するので、後日改めて来院する必要はありません。
当院では麻酔科専門医が術前評価から術中管理まで一貫して担当します。これが日帰り手術の安全性とスピードを両立させる前提です。
紹介状はもちろん歓迎しますが、なくても直接ご予約いただけます。地域の先生方との情報共有が必要な場合は、当院から診療情報提供書をお送りします。
押しても戻らない、強い痛みがある、嘔吐するなどの症状変化があれば、まずお電話でご相談ください。症状を伺って状況を判定し、できる限り早期に診察枠をご案内できるよう努めます。状況に応じて連携病院をご紹介することもあります。様子見が危険なケースもありますので、ためらわずご連絡ください。
仕事や生活の予定に合わせた手術スケジュール
「金曜日に手術して土日で安静、月曜からデスクワークに復帰したい」「年末年始の休業期間中に手術を済ませたい」「夏休み中に終わらせたい」といった、お仕事や家族のスケジュールに合わせた日程調整も可能です。日帰り手術ならではの柔軟性を活かして、お一人おひとりの生活に合うタイミングをご提案します。
手術の変遷 — 「再発」と「痛み」をどう減らしてきたか
鼠径ヘルニアの手術には、140年近い歴史があります。その歴史は「再発をどう防ぐか」と「術後の痛みをどう減らすか」という2つの課題を、一つずつ解いてきた過程でもあります。いま当院が行う予定のTAPP法がなぜこの形になったのか、順を追ってご説明します。
第1世代(1887年〜)Bassini法 — 「決まったやり方」が生まれた
それ以前のヘルニア手術には確立した方法がなく、再発が避けられませんでした。1887年、イタリアの外科医バッシーニが、弱くなった鼠径部の組織を解剖の層に沿って縫い直す系統的な方法を発表します6。以後100年近く、ヘルニア手術の基本形となりました。
改良された点:「どこをどう縫うか」が定まり、手術の再現性が生まれました。
残った課題:本来離れている自分の組織を引き寄せて縫うため、縫い目に常に張力(引っ張る力)がかかります。これが突っ張るような痛みの原因になり、さらに張力そのものが縫い目をゆるめて再発を招く要因にもなりました。
第2世代(1989年〜)Lichtenstein法 — 「張力」をなくした
1989年、リヒテンシュタインらは「ヘルニア手術が失敗する主な原因は、本来は接していない組織を張力をかけて縫い合わせることにある」と指摘し、引っ張って縫うのをやめて、メッシュ(人工の膜)で覆って補強する方法を発表しました7。張力をかけないという意味で「tension-free(テンションフリー)」と呼ばれます。
改良された点:第1世代の弱点だった張力がなくなり、突っ張る痛みと、張力に由来する再発の要因が取り除かれました。
残った課題:足の付け根を直接切開して到達するため、傷がある程度の大きさになります。左右両方にヘルニアがある場合は切開が2か所必要です。また切開部には感覚をつかさどる神経が走っており、そこに触れることが術後に続く違和感の要因になり得ました。
第3世代(1990年代〜)腹腔鏡手術 — 「傷」と「神経」を避けた
1982年にガーらが腹腔鏡を使う考え方を報告し、1992年にアレギらがTAPP法(経腹的腹膜前修復法)の初期報告を行いました。おなかの中を通らずに修復するTEP法(完全腹膜外修復法)も、1990年代前半に複数の術者から相次いで報告されています8。
改良された点:外から切り開くのではなく、おなかの内側からヘルニアの穴をふさぐ発想に変わりました。これにより、①傷が3つの小さな穴で済む ②左右両方のヘルニアを同じ傷から治せる ③切開部の神経に触れずに済む、という3点が同時に解決しました。
国際的な診療ガイドラインでも、腹腔鏡による修復は主要な選択肢の一つとして位置づけられています1。ただし、すべての方に腹腔鏡が適しているわけではありません。体格や過去の手術歴、全身の状態によっては切開法のほうが適している場合もあります。
各世代は、前の世代が「残した課題」を解くかたちで生まれています。色に加えて「問題/改良された点/残った課題」のラベルを付けています。
Bassini法(組織を縫い合わせる)エドアルド・バッシーニ(イタリア)
確立した手術方法がなく、再発が避けられなかった。
弱くなった鼠径部の組織を、解剖の層に沿って縫い直す方法を確立。「どこをどう縫うか」が定まり、手術に再現性が生まれた。
本来離れている組織を引き寄せて縫うため、縫い目に常に張力がかかる。突っ張る痛みの原因になり、張力自体が再発も招いた。
Lichtenstein法(メッシュで覆う)アーヴィング・リヒテンシュタイン ら(アメリカ)
縫い目の張力が、痛みと再発の主な原因になっていた。
引っ張って縫うのをやめ、メッシュで覆って補強する「tension-free(張力ゼロ)」へ。突っ張る痛みと、張力に由来する再発の要因が取り除かれた。
足の付け根を直接切開するため傷が大きい。両側なら切開は2か所。切開部の神経に触れることが、術後に続く違和感の要因になり得た。
腹腔鏡手術(TAPP法・TEP法)ガー(1982年・考え方の提唱)/アレギ(1992年・TAPP法)ほか
切開が大きく、両側では2か所必要。切開部の神経に触れてしまう。
外から切り開かず、おなかの内側から穴をふさぐ発想へ。①傷が3つの小さな穴で済む ②両側を同じ傷から治せる ③切開部の神経に触れずに済む、が同時に解決した。
おなかを膨らませて操作するため全身麻酔が必要。体格や過去の手術歴によっては、切開法のほうが適している場合もある。
当院ではこの第3世代のTAPP法を主術式とする予定です。全身麻酔は麻酔科専門医が担当します。
当院がTAPP法を主術式とする理由と全身麻酔の考え方については、このページの「当院の日帰り手術を支える体制・方針」で詳しくご説明しています。手術に伴うリスクについては日帰り手術のリスクと合併症もあわせてご覧ください。
TAPP法とはどんな手術ですか?
当院が行う予定の手術は「TAPP法(タップほう)」と呼ばれる腹腔鏡手術です。正式には「腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(経腹的腹膜前修復法)」といいます。
おなかに3つの小さな穴(3〜12mm)を開け、カメラでおなかの中から見ながら、ヘルニアの穴を内側からメッシュでふさぐ方法です。国際的なガイドライン(HerniaSurge国際ガイドライン)でも標準的な術式のひとつとされています。
TAPP法とTEP法の違いは何ですか?
どちらも腹腔鏡を使ってメッシュで修復する方法で、違いは「どこからヘルニアに近づくか」です。
| TAPP法(当院で行う予定の方法) | TEP法 | |
|---|---|---|
| アプローチ | おなかの中(腹腔内)から | 腹膜の外側のスペースから |
| 特徴 | おなかの中全体を見わたせるため、反対側にかくれたヘルニアも同時に確認できます | おなかの中に入らずに行えるため、おなかの中の臓器に触れずにすみます |
どちらも国際的なガイドラインで標準的とされている術式で、優劣を示すものではありません。患者さんの状態や施設の方針によって選択されます。
3つの術式はメッシュを置く位置と、そこへ到達する道すじが違います。TAPP法とTEP法はどちらもメッシュを壁と腹膜のあいだ(腹膜前スペース)に置き、国際的なガイドラインで標準的とされている術式です。どちらが優れているというものではなく、患者さんの状態や施設の方針によって選択されます。
当院の手術のやり方
当院では腹腔鏡(ふくくうきょう)という小さなカメラを使った手術を行います。おなかに3〜12mmの小さな穴を3つ開けて、カメラで中を見ながら治します。世界的に広く行われている方法です。
腹腔鏡手術(TAPP法・当院で行う予定の方法)
濃い部分が3mm、点線の部分は12mmまでの幅を表しています。実際の大きさは体格や術中の判断によって変わります。
傷の長さの合計
約0.9〜3.6cm(3〜12mm × 3か所)
※お使いの画面の設定によっては、表示される長さが実寸と多少ずれることがあります。※足の付け根を直接切開する方法(切開法)では、これより傷が大きくなります。体格や過去の手術歴、全身の状態によっては切開法のほうが適している場合もあり、傷の大きさだけで術式が決まるわけではありません。※傷あとの治り方には個人差があります。
腹腔鏡手術では、おなかに3〜12mmの穴を3か所開けて行います。左右両方のヘルニアがある場合も、同じ3か所の傷から一度に治せます。
TAPP法の手術手順
当院で予定している手術の、一般的な流れです(手術そのものは約30〜90分)。
- 全身麻酔をかけます。眠っている間に手術は終わります
- おなかに3〜12mmの小さな穴を3つ開けて、カメラ(腹腔鏡)と器具を入れます
- カメラでおなかの中からヘルニアの穴(ヘルニア門)と、飛び出した組織の状態を確認します。このとき反対側にかくれたヘルニアがないかも確認できます
- 飛び出した組織をおなかの中に戻します
- ヘルニアのまわりの腹膜を開いて、修復のためのスペースをつくります
- 弱くなった部分をメッシュ(補強用のシート)で内側からおおって固定します
- 開いた腹膜をとじて、皮膚を縫って終わりです
※実際の手順や時間は、患者さんの状態によって変わることがあります。
この手術のいいところ
- 傷が小さくて、手術のあとの痛みが少ない
- カメラで全体が見えるから、見落としが少ない
- 左右両方のヘルニアを一度に治せる
- おなかを大きく切る手術より、あとの痛みがつづきにくい
- 傷が目立ちにくい
当院の日帰り手術を支える体制・方針
吉祥寺日帰り手術クリニック(2026年11月開院予定)が、鼠径ヘルニアの日帰り手術のために準備している当院の体制・方針です。
執刀と麻酔を分業する2人体制
外科専門医が執刀に専念し、麻酔科専門医が全例の麻酔を専任で担当する予定です。麻酔科専門医が、術前の診察・検査による評価から、術中の呼吸・血圧など全身状態の管理、術後の回復確認までを一貫して受け持つ体制を予定しています。この麻酔専任体制を、当院の日帰り全身麻酔における基本方針とする予定です(医師の資格・経歴は医師紹介をご覧ください)。
費用は「総額の目安」で表示する方針
当院は費用を、手術料だけでなく麻酔・検査などを含めた「保険診療の場合の総額の目安」で表示する方針です。医療機関によって費用の表示範囲は異なるため、表示されている金額に何が含まれるか(手術料のみか、麻酔・検査等を含む総額か)をご確認いただくことをおすすめします。本ページの「3割負担で約8万〜13万円(麻酔・検査込み)・2026年12月の保険診療開始後の見込み」は、この方針に基づく総額の目安です。
TAPP法を主術式とする理由
当院は鼠径ヘルニアの主術式として、TAPP法(腹腔鏡下修復術)を採用する予定です。おなかの中全体を見わたせるため反対側にかくれたヘルニアも同時に確認できること、左右両方のヘルニアを一度に治せること、傷が小さく術後の痛みがつづきにくいことが採用の理由です。TAPP法・TEP法はいずれも国際的なガイドラインで標準的とされる術式であり、優劣を示すものではありません。患者さんの状態に応じて適した方法をご提案する予定です。
入院する手術との違い
| くらべること | 入院する手術 | 当院の日帰り手術 |
|---|---|---|
| 入院 | 3〜5日 | なし(その日に帰れる) |
| やり方 | おなかを切って開く | 小さなカメラで手術 |
| 傷の大きさ | 5〜8cm | 3〜12mm × 3つ |
| 痛み | 中くらい〜強い | 軽い(薬でおさえられる) |
| 仕事に戻れる日 | 1〜2週間後 | デスクワーク→次の日 |
| お金(保険診療・3割負担の場合) | 約10〜15万円(入院費含む) | 約8万〜13万円(保険診療開始後の見込み) |
| また出る確率 | 約1〜4% | 約1〜2% |
| 家族がすること | 入院中のお世話 | 帰るときのお迎えだけ |
日帰り手術は入院しないので、入院代がかかりません。そのぶんお金の負担が少なくなります。
手術の流れ
診察と検査をします
からだの状態をみて、血液検査や心電図などを行います。
この日に手術の日を決めます。
クリニックに来ます
朝にクリニックへ来てください。
前の日の夜9時からごはんは食べないでください。
水やお茶は手術の2時間前まで飲めます。
手術の準備をします
手術用の服に着替えて、点滴を始めます。
手術をします
麻酔で眠っている間に手術します。
痛みは感じません。目が覚めたら終わっています。
休んで回復します
ベッドで休みます。
水が飲めて、歩けるようになったら帰れます。
おうちに帰ります
家族のお迎えかタクシーで帰ります。
この日はお風呂に入らないでください。
次の日からシャワーはOKです。
様子をみせに来ます
手術のあと、2回クリニックに来て、
傷の様子をチェックします。
よくある質問
Q. 放っておいたらどうなりますか?
鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、放置すると徐々に大きくなります。嵌頓(かんとん)が起きると飛び出した腸が戻らなくなり、血流が遮断されて腸管壊死に至る可能性があります。嵌頓が起きた場合は緊急手術が必要です。症状に気づいた段階での早期受診をお勧めします。
Q. 日帰り手術は本当に大丈夫ですか?
鼠径ヘルニアに対する日帰りでの手術は、国際ガイドライン(HerniaSurge 2018)でも選択肢のひとつとして位置づけられています1。ただし、どなたにも適するわけではありません。心臓や呼吸器の持病、服用中のお薬、手術当日にご自宅で過ごせる環境かどうかによっては、入院での手術のほうが適していると判断することがあります。当院では麻酔科専門医が術前に全身状態を評価し、日帰りで行うことが適切でないと判断した場合は、入院設備のある医療機関へご紹介する方針です。
Q. 女性でもなりますか?
はい、女性も鼠径ヘルニアを発症します。ただし、男女比は約8:1で男性に多い疾患です。女性の場合は大腿ヘルニアの割合が男性より高く、嵌頓のリスクが高いため早めの手術が推奨されます。女性の鼠径部のふくらみは見落とされやすいため、違和感がある場合は外科の受診をお勧めします。
Q. 子ども(小児)の鼠径ヘルニアも診てもらえますか?
当院は成人の方を対象としており、小児(お子さま)の鼠径ヘルニアは診療の対象外です。小児の鼠径ヘルニアは、生まれつき腹膜の一部が閉じずに残ることが原因で、腹壁がゆるんで起こる成人の鼠径ヘルニアとは成り立ちが異なります。手術の方法も異なり、メッシュを使わない方法が選ばれます。小児外科のある医療機関へご相談ください。
Q. 手術したあと、また出ることはありますか?
TAPP法による再発率は約1〜2%と報告されています1。メッシュ修復術が普及する以前は再発率が10%を超えることもありましたが、現在は大幅に低下しています。当院では鼠径部全体を広くメッシュで覆う方法を採用し、再発リスクの低減に努める方針です。
Q. 手術のあと、痛いですか?
腹腔鏡手術は傷が小さいため、開腹手術と比較して術後の痛みは軽度とされています。多くの方は処方される鎮痛剤の内服で痛みを管理できます。術後数日間は創部の痛みや腹部の張り感がありますが、日常生活に支障が出るほどの痛みではない場合がほとんどです。
Q. いつから仕事に戻れますか?
デスクワークであれば手術の翌日から復帰が可能です。軽い肉体労働は術後1週間程度、重い荷物の運搬や激しい運動を伴う仕事は術後1ヶ月程度が目安です。個人差がありますので、術後の経過を見ながら具体的にご説明する予定です。
| お仕事の種類 | 復帰の目安 |
|---|---|
| デスクワーク | 次の日から |
| 体を使う仕事 | 約1週間後から |
| 重いものを持つ仕事 | 約1ヶ月後から |
Q. 手術の費用はいくらかかりますか?
保険診療の場合、3割負担で約8万〜13万円が目安です(麻酔・検査を含む総額の見込み)。ご加入の健康保険の負担割合や、高額療養費制度の適用によって実際の自己負担額は変わります。当院は2026年12月1日から保険診療を開始する予定のため、記載の金額は開院後の見込みです。内訳については鼠径ヘルニアの手術費用のページで詳しくご案内しています。
Q. 保険は使えますか?
はい、鼠径ヘルニアの手術は健康保険が適用されます。当院の保険診療開始(2026年12月1日予定)後は、3割負担で約8万〜13万円(麻酔・検査込み)となる見込みです。高額療養費制度を利用すれば、所得に応じた自己負担限度額までの負担で済みます。入院手術と比較すると、入院費用がかからないため自己負担が軽減されます。くわしくは鼠径ヘルニアの手術費用のページをご覧ください。
Q. 運動はいつからできますか?
散歩は手術翌日から可能です。ジョギングなどの軽い運動は術後2週間程度で再開できます。腹筋運動や重量挙げなどの腹圧がかかる運動は術後1ヶ月を目安にしてください。ゴルフやテニスは術後2〜3週間で再開できる場合が多いですが、個人の回復状況により異なります。
Q. 左右両方のヘルニアも日帰りでできますか?
はい、両側の鼠径ヘルニアも日帰りで手術可能です。TAPP法は腹腔鏡を使用するため、同じ3箇所の小切開から両側のヘルニアを同時に修復できます。術後の回復期間は片側手術と大きく変わりません。
Q. TAPP法の手術時間はどのくらいですか?
手術そのものは約30〜90分です。当日は来院から帰宅まで2〜3時間ほどを予定しています。
Q. 全身麻酔と聞くと不安です。
手術中は麻酔科専門医が、呼吸や血圧などの全身状態を最初から最後まで管理する予定です。全身麻酔には一般的なリスクも伴いますが、術前の診察と検査で全身の状態を確認したうえで行います。眠っている間に手術が終わり、目が覚めてから1〜2時間ほど休んで帰宅できます。ご不安な点は診察のときに何でもご相談ください。
Q. 手術で入れたメッシュがあると、MRI検査は受けられなくなりますか?
鼠径ヘルニアの手術で使われるメッシュの多くはポリプロピレンなどの非金属素材で、MRI検査を受けられるのが一般的です。ただし検査の前に、使用した製品名と固定方法をご自身で把握し、検査先にお伝えいただくのが原則です。詳しくは鼠径ヘルニアのメッシュが入っていてもMRIは受けられる?で解説しています。
Q. 手術の傷跡は目立ちますか?
傷は3〜12mmが3か所です。時間の経過とともに目立ちにくくなっていくことが多いですが、経過には個人差があります。
関連コラム
- 脱腸(鼠径ヘルニア)とは|症状・原因・治し方をやさしく解説
- 足の付け根のしこり|押すと痛い・痛くない別に考えられる原因
- 女性の鼠径部・足の付け根の痛み|片方だけ痛いときに考えられる原因
- 鼠径ヘルニアは様子を見ていい?経過観察と手術の判断
- 鼠径ヘルニアのメッシュが入っていてもMRIは受けられる?
参考文献
- HerniaSurge Group. International guidelines for groin hernia management. Hernia. 2018;22(1):1-165. (PMID: 29330835)
- 日本ヘルニア学会. 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン 2015. 金原出版; 2015.
- Neumayer L, et al. Open mesh versus laparoscopic mesh repair of inguinal hernia. N Engl J Med. 2004;350(18):1819-1827. (PMID: 15107485)
- Miserez M, et al. Update with level 1 studies of the European Hernia Society guidelines. Hernia. 2014;18(2):151-163. (PMID: 24647885)
- 日本内視鏡外科学会. 内視鏡外科手術に関するアンケート調査 第15回集計結果報告. 日本内視鏡外科学会雑誌. 2020;25(6):587-685.
- Bassini E. Sulla cura radicale dell’ernia inguinale. Arch Soc Ital Chir. 1887;4:380.
- Lichtenstein IL, Shulman AG, Amid PK, Montllor MM. The tension-free hernioplasty. Am J Surg. 1989;157(2):188-193. (PMID: 2916733)
- Iossa A, Traumueller Tamagnini G, De Angelis F, Micalizzi A, Lelli G, Cavallaro G. TEP or TAPP: who, when, and how? Front Surg. 2024;11:1352196. (doi:10.3389/fsurg.2024.1352196)
- Piltcher-da-Silva R, et al. Outcomes of Emergency Groin Hernia Repair in the Elderly: A Systematic Review. J Abdom Wall Surg. 2023;2:11246. (PMID: 38312429)
鼠径ヘルニアが気になる方は、吉祥寺日帰り手術クリニック(吉祥寺駅から歩いて2分・2026年11月開院予定)にご相談ください。外科専門医と麻酔科専門医がいっしょに、安全な日帰り手術を行う予定です。保険が使えて、保険診療開始後は3割負担で約8万〜13万円となる見込みです。
なお、鼠径ヘルニアは「そけいヘルニア」とひらがなで表記されることもありますが、同じ病気です。「脱腸」も同じ病気を指す俗称で、脱腸(鼠径ヘルニア)の解説もあわせてご覧いただけます。
吉祥寺駅はJR中央線・総武線と京王井の頭線が乗り入れており、三鷹・西荻窪・荻窪・久我山・国分寺・立川方面からもお越しいただけます。日帰り手術のため入院の準備は不要で、通院は術前の診察・手術当日・術後の診察が基本となる予定です。
吉祥寺日帰り手術クリニックで対応予定の日帰り手術