
麻酔科専門医 高宮 達郎
吉祥寺日帰り手術クリニック副院長(予定)。大学病院の高度手術から日帰り・美容外科手術まで15年以上の臨床麻酔と3年の基礎研究のキャリア。安全と快適を徹底追求。術前評価から術後フォローまで外科と連携し、不安最小・回復最大の麻酔管理を提供。全ての医療行為に細心の注意を払い、苦痛を軽減。柔軟予約で多忙な方にも安心。一貫サポートを徹底。
「全身麻酔中に目が覚めてしまったらどうしよう」。そんな不安で、夜も眠れなくなっていませんか?インターネットで検索すると、恐ろしい体験談ばかりが出てきます。動けない、声が出せない、痛みを感じる…。手術を控えた今、そんな情報を読んで、心臓がドキドキしているかもしれません。
でも実は、医学的データを正しく理解すれば、その不安の9割以上は解消できます。術中覚醒の発生率は約2万分の1です。これは飛行機事故よりもはるかに低い確率です。
私は麻酔科医として15年以上、数千例の全身麻酔に携わってきました。その経験から申し上げます。現代の麻酔技術と適切な準備によって、術中覚醒のリスクは大きく下げられると考えられています。
この記事では、術中覚醒について医学的根拠とともに解説します。本当の発生率、なぜ起きるのか、どう防ぐのか、万が一の対処法まで、すべてを扱います。
病気ごとの手術の説明は、日帰り手術の対象となる病気の一覧をご覧ください。
読み終わる頃には「なんだ、そんなに心配することじゃなかった」と安心し、自信を持って手術に臨めるようになっているはずです。
結論を先に言います。術中覚醒は極めてまれで、予防可能で、あなたができる対策もあります。
目次
- 全身麻酔とは?コンピューターのスリープモードのような精密技術
- 術中覚醒とは何か?正しく理解すれば怖くない
- 術中覚醒の発生率は約2万分の1!思っているよりずっと少ない
- なぜ術中覚醒は起きるのか?3つの主要因を理解する
- 現代の麻酔技術による7つの安全対策
- 術中覚醒を防ぐためにあなたができる7つの準備
- 万が一術中覚醒が起きた時の対処法
- 実例から学ぶ術中覚醒対策の成功事例
- よくある質問Q&A – 術中覚醒の疑問にすべて答えます
- まとめ:術中覚醒の不安を乗り越えて安心な手術へ
1. 全身麻酔とは?コンピューターのスリープモードのような精密技術
全身麻酔には「怖い薬で無理やり眠らせる」というイメージがあります。しかし実際は、脳の機能を一時的にコントロールする精密な医療技術です。
パソコンをスリープモードにするように、脳の「意識」「痛み」「記憶」の3つの機能を一時的にオフにします。その間も呼吸や心臓は動いており、麻酔科医が秒単位で監視しています。
全身麻酔が達成する3つの目的
全身麻酔には明確な3つの目的があります。
- 意識をなくす – 手術の記憶が残らない
- 痛みを遮断する – 体への負担を最小限に
- 筋肉を弛緩させる – 安全な手術操作を可能に
この3つが同時に達成されて、はじめて安全な手術ができます。飛行機が離陸するのに必要な条件がそろうようなものです。
全身麻酔の方法は主に2種類
吸入麻酔はマスクから麻酔ガスを吸う方法です。濃度の調整が簡単です。覚醒(目覚め)も比較的早いのが特徴です。呼吸とともに体から排出されるため、コントロールしやすい方法といえます。
静脈麻酔は点滴から薬を入れる方法です。ガスを使わないので、環境にもやさしい方法です。血中濃度を一定に保つことで、安定した麻酔状態を維持できます。
多くの場合、この2つを組み合わせて、あなたの体質や手術内容に最適な麻酔を設計します。
麻酔の3つの段階
導入期では、薬剤で眠りにつきます。「10から逆に数えてください」と言われることがありますが、たいてい7か6で記憶がなくなります。
維持期では、監視下で麻酔の深さを調整します。麻酔科医は10項目以上のデータを同時に監視しています。
覚醒期では、麻酔薬を止めて意識を回復させます。5分から15分ほどで目が覚めます。
2. 術中覚醒とは何か?正しく理解すれば怖くない
術中覚醒とは、全身麻酔中に意識が戻ってしまう現象のことです。音が聞こえたり、会話の内容を覚えていたりすることがあります。まれに、圧迫感や痛みを感じる場合もあります。
全身麻酔と夢:術中覚醒との違い
全身麻酔のあと、「夢を見ていた」「手術中に目が覚めていたのでは」と感じることがあります。しかし、夢を覚えていることだけで、麻酔が浅かった、あるいは術中覚醒が起きたとは判断できません。予定手術を受ける18〜50歳の比較的健康な患者さん300人を調べた研究では、覚醒時に22%が夢を報告しましたが、夢の有無によって麻酔維持中の脳波由来の指標(BIS)に差はありませんでした。これは特定の条件で行われた研究の結果で、すべての患者さんに当てはまる割合ではありません。[8]
夢の内容は日常の睡眠で見る夢に似て、手術とは関係のないものもあります。夢を見た時期については、麻酔から目覚める過程との関連を示す研究があります。ただし、術後に思い出した夢が麻酔中のどの時点で生じたのかを正確に特定することは難しく、すべてを「目覚める直前の夢」と説明できるわけではありません。[8], [9]
術中覚醒の評価では、全身麻酔を受けている間の実際の出来事の記憶があるかを確認します。夢のように感じられる体験でも、それだけで判断はできません。夢を報告した患者さんの一部に、夢とは別に実際の術中の出来事の記憶が認められた研究もあります。[10]
「眠る前に最後に覚えていること」「目覚めて最初に覚えていること」「その間の体験」をご本人の言葉で伺うことが大切です。必要に応じて、聞こえた言葉や音、体の感覚、痛み、動けなかった感じなどを確認し、麻酔記録や手術中・回復時の状況と照らし合わせます。一つの症状やモニターの数値だけで、夢か術中覚醒かを決めるものではありません。[3], [11]
夢なのか実際の記憶なのか、ご自身で結論を出してから相談する必要はありません。手術を受けた医療機関や担当の麻酔科医に、覚えている範囲でお伝えください。退院後に思い出した場合も相談できます。怖い夢、強い不安、体験が繰り返しよみがえる感じなどがある場合は、そのつらさもお知らせください。術中覚醒と確認できるかどうかにかかわらず、苦痛への配慮と必要に応じた心理的支援が重要です。[11]
検査や処置で行う「鎮静」は全身麻酔とは異なり、意識や記憶が一部残ることがあります。どの方法を予定しているか事前に確認することも大切です。[11]
術中覚醒の3つの段階
軽度の覚醒では、音が聞こえたり、ぼんやりとした記憶が残ったりすることがあります。ただし、「夢を見ていたような感じ」という体験だけで、術中覚醒かどうかは判断できません。[3], [10]
中等度の覚醒では、会話の内容を覚えていたり、手術室の様子を思い出したりします。ただし、痛みは感じないことがほとんどです。
重度の覚醒では、痛みや圧迫感を伴うことがあります。これは最も避けなければならない状況ですが、極めてまれです。
なぜ「動けない」のか?筋弛緩薬の影響
術中覚醒で最もつらいのは、意識があるのに動けないことです。これは筋弛緩薬という薬の影響です。
筋弛緩薬は、手術を安全に進めるために筋肉をゆるめる薬です。呼吸を助ける管を入れたり、お腹の手術で筋肉の緊張をとったりするのに必要です。
しかし、この薬が効いていると、意識が戻っても体を動かしたり、声を出したりできません。まるで金縛りにあったような状態になるのです。
3. 術中覚醒の発生率は約2万分の1!思っているよりずっと少ない
※「麻酔から目が覚めない確率(死亡率)」を知りたい方は、別記事「麻酔から目覚めない確率は?」で詳しく解説しています。このページは「手術中に意識が戻る(術中覚醒)」の確率と対策についての解説です。
最新の大規模調査NAP5が示す真実
イギリスの大規模調査NAP5によると、術中覚醒の発生率は約19,600件に1件(0.005%)でした。
これがどれほど低い確率か、身近な例で比較してみましょう。
- 宝くじで1万円当選:約1,000分の1
- 交通事故(生涯):約100分の1
- 飛行機事故:約1万分の1
- 術中覚醒:約2万分の1
日常生活で心配しないことより、さらに起こりにくいのです。
手術の種類による術中覚醒リスクの違い
手術の種類によって発生率は変動しますが、これには医学的な理由があります。
| 手術の種類 | 発生率 | 理由 |
|---|---|---|
| 一般的な手術 | 約2万分の1 | 十分に深い麻酔が可能 |
| 帝王切開 | 約670分の1(0.15%) | 赤ちゃんへの影響を最小限にするため |
| 心臓手術 | やや高め | 心機能保護のため慎重な調整が必要 |
筋弛緩薬使用による術中覚醒リスクの差
筋弛緩薬の使用有無で大きな差があります。
- 筋弛緩薬あり:約8,200分の1
- 筋弛緩薬なし:約135,900分の1
この16倍の差は、筋弛緩薬使用時は体が動かせないため、覚醒のサインを周囲に伝えられないことが原因です。
4. なぜ術中覚醒は起きるのか?3つの主要因を理解する
1. 患者さん側の要因
アルコール常飲と麻酔効果
慢性的な飲酒は最も重要な要因の一つです。アルコールと麻酔薬は、脳の同じ受容体(GABA受容体)に作用します。日常的に飲酒していると、この受容体の感受性が低下します。その結果、麻酔薬への耐性(効きにくさ)ができやすくなります。
具体的な目安:
- 毎日飲酒する方:通常の1.2〜1.5倍の麻酔薬が必要
- 週3〜4回飲酒する方:やや多めの麻酔薬が必要
長期服薬の影響
慢性的に以下の薬を服用している方は注意が必要です。
- 痛み止め(オピオイド系、NSAIDs)
- 睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)
- 抗不安薬
- 抗うつ薬
これらの薬により、麻酔薬の必要量が増えることがあります。
その他のリスク要因
- 睡眠時無呼吸症候群:呼吸管理の難しさから浅い麻酔になりがち
- 極端な体格:やせ・肥満により薬の分布が変化
- 赤毛:MC1R遺伝子変異により麻酔が効きにくい
- 若年者:代謝が早く麻酔が覚めやすい
- 過去の覚醒経験:再発リスクがやや高い
2. 手術・状況の要因
緊急手術のリスク
緊急手術では以下の理由でリスクが上がります。
- 十分な問診時間がとれない
- 患者情報が不完全
- 絶食時間が不十分
- 精神的準備ができていない
出血や循環動態の問題
大量出血時は血圧維持のため、やむを得ず麻酔を浅くすることがあります。これは生命維持を優先するための医学的判断です。
特殊な手術での配慮
帝王切開:赤ちゃんへの麻酔薬移行を最小限にするため、意図的に浅い麻酔を選択
心臓手術:心機能保護のため、麻酔深度を慎重に調整
脳外科手術:術中の神経機能評価のため、一時的に浅い麻酔にすることがある
3. 技術的な問題(極めてまれ)
薬剤投与の問題
- 点滴ラインの外れ・詰まり
- 薬剤計算ミス
- ポンプの誤作動
機器の問題
- 麻酔器の故障
- モニターの誤作動
- 警報システムの不具合
ただし、現代の多重チェック体制と定期点検により、これらはほぼ防がれています。
5. 現代の麻酔技術による7つの安全対策
1. 多重モニタリングシステム
麻酔科医は以下のデータを同時に監視します。
生理学的モニター
- 心電図(心臓の電気活動)
- 血圧(1〜5分ごと)
- パルスオキシメータ(酸素飽和度)
- カプノメータ(呼気CO2濃度)
- 体温
麻酔深度モニター
- 呼気ガス濃度(MAC値)
- BISモニター(脳波解析)
- エントロピー(脳波の複雑性)
その他のモニター
- 筋弛緩モニター
- 尿量
- 出血量
2. MAC(最小肺胞内濃度)による管理
MACは麻酔の深さを示す国際標準指標です。
- MAC 1.0:50%の人が皮膚切開に反応しない濃度
- MAC 0.7以上:99%以上の確率で意識なし
- 年齢補正:高齢者はMACが低下するため個別調整
手術中は常にMAC 0.7〜1.3を維持し、確実な麻酔状態を保ちます。
3. BISモニターによる脳波監視
BIS(Bispectral Index)は脳波を0〜100の数値で表示します。
| BIS値 | 意識レベル | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| 85-100 | 完全覚醒 | 通常の意識状態 |
| 65-85 | 鎮静状態 | 検査時の軽い鎮静 |
| 40-65 | 全身麻酔 | 手術に適した深さ |
| 0-40 | 深麻酔 | 過剰な麻酔 |
目標は40〜60を維持することです。
4. 個別化麻酔計画
術前評価に基づき、一人ひとりに最適な麻酔を設計します。
飲酒者の例
- 通常の1.5倍の麻酔薬を準備
- BISモニター必須使用
- 覚醒時の興奮に備えた薬剤準備
不安の強い方の例
- 手術室入室前から軽い鎮静
- 十分な説明と声かけ
- 家族の付き添い(可能な場合)
5. チーム医療による情報共有
手術室では全スタッフが連携します。
- タイムアウト:手術開始前の最終確認
- リアルタイム情報共有:「出血増えそうです」「麻酔深くします」
- 役割分担:各自の責任範囲を明確化
6. 薬剤安全管理システム
ダブルチェック体制
- 薬剤名、濃度、量を2人で確認
- バーコード認証システム
- 色分けされたシリンジラベル
自動記録システム
- すべての投薬を自動記録
- アラート機能付き
- 後からの検証が可能
7. 継続的な質向上活動
- 定期的な症例検討会
- シミュレーション訓練
- 最新ガイドラインの導入
- インシデント分析と改善
6. 術中覚醒を防ぐためにあなたができる7つの準備
1. 飲酒習慣の正確な申告
最も重要な情報の一つです。恥ずかしがらずに正直に伝えてください。
伝えるべき内容
- 種類(ビール、日本酒、ワインなど)
- 量(350ml缶○本、ワイン○杯など)
- 頻度(毎日、週○回など)
- 最終飲酒日時
医師は決して責めません。「では麻酔を調整しますね」と対応するだけです。
2. すべての服薬情報の提供
忘れがちな薬
- 市販の痛み止め
- サプリメント(特にセントジョーンズワート)
- 漢方薬
- 目薬、塗り薬
お薬手帳を持参するか、薬の現物を持ってきてください。
3. 過去の麻酔体験の共有
以下の経験があれば必ず伝えてください。
- 麻酔後の吐き気・嘔吐
- 覚醒の遅れ
- 術中の記憶
- アレルギー反応
「10年前のことだから関係ない」と思わずに、すべて話してください。
4. 身体的特徴の申告
- 睡眠時無呼吸:いびき、日中の眠気
- 体格:身長、体重、BMI
- 歯の状態:ぐらつき、入れ歯、インプラント
5. 精神的な不安の表出
「術中覚醒が心配」とはっきり伝えることで、以下の対応が可能になります。
- BISモニターの確実な使用
- やや深めの麻酔設定
- 術前の十分な説明
- 抗不安薬の使用
6. 家族との情報共有
緊張すると大切なことを忘れがちです。
- 家族と一緒に術前外来へ
- 質問事項をメモして持参
- 説明内容を録音(許可を得て)
7. 前向きな心の準備
- 手術後の楽しみを考える
- 成功率の高さ(99.995%)を認識する
- 医療チームを信頼する
7. 万が一術中覚醒が起きた時の対処法
意識が戻った時にすべきこと
1. パニックにならない
人工呼吸器で管理しているため、深呼吸はできません。代わりに、機械が最適な呼吸をしてくれています。
2. 体を動かす努力
- 指先、つま先の小さな動き
- まぶたを動かす
- 涙を流す
どんな小さな動きでもモニターが感知します。
3. 生理的反応を利用
「ドキドキする」と思うだけで心拍数が上がり、アラームが鳴ります。
スタッフが観察している兆候
麻酔科医は常に以下を観察しています。
身体的サイン
- 瞳孔の大きさと反応
- 発汗(特に額)
- 流涙
- 血圧・心拍の急変動
モニター変化
- BIS値の上昇
- 心拍変動の増加
- 血圧の上昇
これらを察知次第、即座に麻酔を深くします。
術後の適切なケア
身体的ケア
- バイタルサインの継続監視
- 十分な鎮痛
- 快適な体位調整
心理的ケア
初期対応
- 麻酔科医による詳しい聞き取り
- 体験の共有と受容
- 今後の不安への対応
長期フォロー
- PTSD症状の早期発見
- 専門カウンセリングへの紹介
- 家族へのサポート指導
術中覚醒経験後の心のケア – PTSDを防ぐために
注意すべきPTSD症状
術後2週間以上続く以下の症状は要注意です。
侵入症状
- 手術場面のフラッシュバック
- 悪夢
- 手術室の音や匂いの幻覚
回避症状
- 病院や医療番組を避ける
- 手術の話題から逃げる
- 将来の医療を拒否
過覚醒症状
- 些細な物音への過敏反応
- 不眠
- イライラ、集中困難
認知・気分の変化
- 自責感
- 医療不信
- 抑うつ気分
効果的な治療法
認知行動療法(CBT)
- トラウマ記憶の再処理
- 不安への対処法習得
- 段階的な恐怖への暴露
EMDR(眼球運動脱感作再処理法)
- 眼球運動を使った記憶処理
- 比較的短期間で効果
- 専門施設で実施
薬物療法
- 抗うつ薬
- 抗不安薬
- 睡眠導入剤
早期治療により、多くの場合3〜6ヶ月で改善します。
8. 状況別に見る術中覚醒への備え
術中覚醒のリスクは、手術の状況や体質によって変わります。ここでは代表的な3つの状況について、麻酔科医がどのような点に注意して麻酔計画を立てるのかを説明します。
状況1:術前評価に十分な時間が取れないとき
緊急手術では、循環動態(血圧や心拍などの状態)の安定が最優先です。そのため、麻酔薬を十分に使えない場面があります。こうした場面では、脳波モニター(BIS など)を早めに装着します。麻酔の深さ(麻酔深度)を客観的に把握するためです。そして、循環が安定した段階で、速やかに十分な麻酔深度を確保します。このような段階的な考え方がとられます。
状況2:麻酔薬の使用量を抑える必要があるとき
全身麻酔薬の量を、意図的に抑える必要がある場合があります。その場合は、区域麻酔(脊椎麻酔・神経ブロックなど)を併用する方法が検討されます。全身麻酔の負担を減らすためです。ただし、全身麻酔を最小限にする場面ほど、覚醒のリスクは上がります。そのため、脳波モニターと呼気麻酔ガス濃度の両方で管理することが重要です。
状況3:お酒を日常的に飲まれる方
アルコールを長期にわたり常用している方は、麻酔薬が効きにくいことが知られています。この場合、必要な薬の量が通常より多くなる前提で準備します。そして、脳波モニターで麻酔深度を厳密に管理します。麻酔から覚めるときの興奮への備えも、計画に含めます。そのため、飲酒量は正直に申告していただくことが安全につながります。
いずれの状況にも共通するのは、リスク要因があっても、事前に把握できていれば対策が立てられるということです。だからこそ術前の問診が重要になります。
9. よくある質問Q&A – 術中覚醒の疑問にすべて答えます
Q1. 本当に2万分の1の確率なんですか?
A. はい、本当です。イギリスの大規模調査NAP5(約300万例解析)で実証されました。さらに、技術の進歩により、この数字は年々下がっています。日本には正確な統計はありません。ただし、欧米と同等以上の安全性があると考えられています。
Q2. BISモニターがあれば絶対に防げますか?
A. 残念ながら100%ではありません。BISが正常値でも覚醒した例が報告されています。しかし、BISとガス濃度管理を組み合わせることで、発生リスクを大幅に下げられるとされています。医学に「絶対」はありませんが、非常に低い確率まで抑えられます。
Q3. お酒を毎日飲んでいますが大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。ただし必ず申告してください。アルコール常飲者は麻酔が効きにくいため、通常より多めの薬が必要です。隠すと麻酔が浅くなるリスクがあります。医師は飲酒を責めることはなく、安全な麻酔のために必要な調整をするだけです。
Q4. 術中覚醒したら必ず痛いのですか?
A. いいえ、違います。術中覚醒の大部分は音が聞こえる程度で、痛みは感じません。なぜなら:
- 局所麻酔や神経ブロックを併用
- 鎮痛薬は別系統で投与
- 痛み刺激より先に意識が戻ることが多い
痛みを伴う重度覚醒は、術中覚醒の中でも極めてまれ(1%未満)です。
Q5. 高齢者(または子ども)はリスクが高いですか?
A. 年齢による特徴はありますが、適切な管理でリスクは最小化できます。
高齢者
- 薬が効きやすい(必要量が少ない)
- 覚醒はゆっくり
- 個人差が大きい
小児
- 代謝が早い(薬が早く切れる)
- 体重あたりの必要量が多い
- 小児麻酔専門医が対応
どちらも年齢に応じた調整で安全に管理できます。
Q6. 局所麻酔や脊椎麻酔なら心配ないですか?
A. これらは、意識がある状態で行います。そのため、「術中覚醒」という考え方は当てはまりません。ただし、鎮静薬を併用する場合は、予期しない覚醒(約15,000分の1)があります。この場合も、適切なモニタリングで対応できます。
Q7. 手術を延期すべき状況はありますか?
A. 以下の場合は医師と相談してください。
延期を検討すべき場合
- 38度以上の発熱
- 重度の風邪症状
- 血圧200/120以上
- 血糖値400以上
- 極度のパニック状態
延期すべきでない場合
- 術中覚醒への不安だけ
- 軽い風邪症状
- がんなど進行性疾患
リスクと利益を総合的に判断します。
Q8. 過去に術中覚醒を経験しました。また起きますか?
A. 再発のリスクはやや高くなります。ただし、前回の経験を生かした対策で、再発リスクを大きく下げることが期待できます。
- 前回の麻酔記録を詳細に分析
- より深い麻酔設定
- 複数のモニター使用
- 経験豊富な麻酔科医が担当
必ず前回の経験を詳しく伝えてください。
Q9. 麻酔のあと夢を覚えていたら、術中覚醒ですか?
A. 夢の記憶だけで術中覚醒かどうかは判断できません。気になる体験は、ご自身で結論を出してから相談する必要はありません。詳しくは「全身麻酔と夢:術中覚醒との違い」をご覧ください。[10], [11]
10. まとめ:術中覚醒の不安を乗り越えて安心な手術へ
この記事の要点
長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。術中覚醒について、最も重要な5つのポイントをまとめます。
- 発生率は約2万分の1(0.005%) – 飛行機事故より低い確率
- 現代技術で予防可能 – MAC管理、BISモニター、多重監視で安全確保
- 正確な情報申告が最大の予防策 – 特に飲酒歴、服薬歴が重要
- 医療チームの継続的な監視 – 10項目以上のデータを秒単位で確認
- 万が一でも対処法がある – 即座の対応と術後の心のケアまで完備
今日からできる3つの行動
- 情報を整理する
- お薬手帳を準備(サプリメントも記載)
- 飲酒習慣を正確にメモ
- 過去の手術体験を思い出して記録
- 不安を言語化する
- 心配事を3つ紙に書き出す
- 術前外来で必ず質問する
- この記事を家族と共有する
- 前向きな準備をする
- 手術後にやりたいことをリストアップ
- 成功率の高さ(99.995%)を認識する
- 医療チームへの信頼を持つ
あなたへの最後のメッセージ
手術は、あなたの健康と生活の質を向上させるための大切な治療です。術中覚醒が不安だからといって、必要な手術を避けるのは本末転倒です。
現代の医療技術と、あなたの適切な準備があれば、安全に手術を受けることができます。医療チーム全員が、あなたの安全と快適さを最優先に考えています。
不安は知識で解消できます。正しい理解と準備をもって、自信を持って手術に臨んでください。
さあ、不安を手放して、新しい健康な毎日への扉を開きましょう。あなたの勇気ある一歩を、心から応援しています。
次のステップ
- この記事で学んだことをメモにまとめる
- 術前外来の予約を確認する
- 質問リストを作成する
- 家族や友人にサポートを依頼する
より詳しい情報は以下でも確認できます:
医療機関の皆様へ
この記事の内容は、最新の医学的エビデンスに基づいていますが、個々の症例では状況が異なります。患者さんの不安に寄り添い、個別の状況に応じた説明と対応をお願いいたします。
参考文献
参考文献(11件)を読む
- Pandit JJ, Cook TM. NAP5: Accidental Awareness during General Anaesthesia in the United Kingdom and Ireland. The Royal College of Anaesthetists and Association of Anaesthetists of Great Britain and Ireland. 2014.
- Avidan MS, et al. Prevention of intraoperative awareness in a high-risk surgical population. N Engl J Med. 2011;365:591-600.
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- Leslie K, et al. Dreaming during anesthesia and anesthetic depth in elective surgery patients: a prospective cohort study. Anesthesiology. 2007;106:33–42. DOI: 10.1097/00000542-200701000-00010. 論文(PubMed)
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- Association of Anaesthetists / Royal College of Anaesthetists. The NAP5 Handbook: Concise practice guidance on the prevention and management of accidental awareness during general anaesthesia. March 2019. NAP5 Handbook(2019年)
免責事項:この記事は一般的な医学情報を提供するものであり、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。具体的な症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。
監修:高宮 達郎(副院長就任予定/日本麻酔科学会 麻酔科専門医・麻酔科指導医)
※当院は開設準備中です(2026年12月開設・2027年1月5日 保険診療開始予定)。記載の診療体制は開院後の予定であり、変更になる場合があります。