手術を検討する方へ
当院は、成人(18歳以上)の方の日帰り手術を行う予定のクリニックです。慢性鼻炎の手術の対象は、薬による治療を十分に行っても鼻づまりや鼻水が強く残る方のうち、下鼻甲介の肥大や鼻腔の形の問題が確認された方です。18歳未満(小児)の方は手術の対象外です。
慢性鼻炎とは
慢性鼻炎は、鼻の粘膜の炎症が長く続く状態です。鼻づまり(鼻閉)・鼻水(鼻漏)・くしゃみが慢性的に繰り返されます。ひとつの病気の名前ではありません。原因の異なるいくつかの状態をまとめた「症状の枠」として使われる呼び方です。
慢性鼻炎は大きく、原因アレルゲンがはっきりしているアレルギー性鼻炎と、アレルギー検査で原因が見つからない非アレルギー性鼻炎に分けられます。アレルギー性鼻炎はさらに、ダニやハウスダストなどが原因で一年中症状が出る通年性と、スギ・ヒノキ・イネ科などの花粉による季節性(花粉症)に分かれます。非アレルギー性では、温度差や刺激で症状が出る血管運動性鼻炎などが知られています。
日本での有病率は高く、耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした全国疫学調査(2019年)では、アレルギー性鼻炎全体の有病率が49.2%、スギ花粉症単独では38.8%と報告され、1998年・2008年の調査から大きく増加していました(松原ら, 2020)。とくに10歳代でスギ花粉症の増加が目立ちました。この調査では、およそ2人に1人がアレルギー性鼻炎にあたるという結果でした。
日本のアレルギー性鼻炎の有病率の推移
アレルギー性鼻炎全体スギ花粉症
出典: 松原篤, ほか. 日本耳鼻咽喉科学会会報 2020(耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした全国調査。1998年・2008年は同じ方法で行われた過去の調査の値)。一般の人を無作為に選んだ調査ではありません。
鼻づまりが慢性的に続くと、睡眠の質が落ちます。その結果、日中の眠気や集中力の低下を招き、学業や仕事のパフォーマンスが下がります。口呼吸が習慣になると、のどの乾燥、いびき、口臭の原因にもなります。「鼻がつまっているだけ」と我慢されがちです。しかし、生活の質への影響は決して小さくありません。
治療の基本は、原因の除去と回避(掃除・寝具対策・花粉の侵入防止)、そして薬物療法です。第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド、抗ロイコトリエン薬などを症状のタイプと重症度に応じて組み合わせます。
ダニとスギ花粉については、体質そのものに働きかけるアレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)という選択肢もあります。それでも鼻づまりや鼻水が強く残る場合や、鼻の形の問題が関わっている場合には、手術療法が検討されます(鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版)。
この手術の対象になるのはどんな方?(当院の適応)
以下は診療ガイドラインに沿った、当院の考え方です。手術の対象となる方の詳しい条件をご確認ください。
◎ 当院での日帰り手術をお勧めできる方
- 18歳以上の方
- 鼻噴霧用ステロイドと抗ヒスタミン薬などを適切に3か月程度以上(季節性の場合は1シーズン以上)続けても、鼻づまり・鼻水が強く日常生活や睡眠に支障がある
- 鼻内視鏡やCTで下鼻甲介の肥大や鼻腔形態の問題が確認されている
- 薬の副作用(眠気など)で内服を続けにくい、または仕事や生活の都合で薬に頼らない状態をめざしたい
- 手術当日に付き添いの方が確保でき、帰宅後に安静を保てる環境がある
△ まず診察でご相談が必要な方
- 鼻づまりに加えて、鼻水・くしゃみの症状もお持ちの方 — 下鼻甲介の手術に後鼻神経切断術(経鼻腔的翼突管神経切断術)を組み合わせることが選択肢になります。術式は診察で判断します(後鼻神経切断術を行う条件は、下の「後鼻神経切断術とは」の項目をご覧ください)
- 鼻中隔弯曲症(鼻中隔湾曲症)を併せてお持ちの方 — 鼻中隔矯正術を同時に行ったほうが鼻づまりの改善が得られやすい場合があります
- 慢性副鼻腔炎(鼻茸を含む)を併せてお持ちの方
- 気管支喘息を合併している方
- 舌下免疫療法を受けている、または検討中の方 — 手術と免疫療法は目的が異なるため、順序と組み合わせをご相談します
- 抗凝固薬・抗血小板薬を服用中の方(休薬の可否を処方医と相談します)
× 当院では対応できない方(他院をご紹介します)
- 18歳未満の方(小児)
- 妊娠中の方
- 急性の感染(発熱を伴う風邪・急性副鼻腔炎など)を起こしている時期の方 — 治まってから改めてご相談ください
- 出血しやすい体質(血液疾患など)で、休薬や止血の管理が難しい方
- 心臓や血管(動脈)の病気、肺の病気や重い喘息などの併存疾患があるなど、年齢や全身状態から日帰りではなく入院して全身麻酔の手術を受けるほうが適切と判断される方 — 麻酔科専門医が手術前に評価し、入院設備のある連携医療機関をご紹介します
※ 当院では全身麻酔で手術を行う予定です。当院で行う予定の手術は、下鼻甲介を内側から小さくする粘膜下下鼻甲介切除術(骨は切除しません)と、鼻水・くしゃみに対する後鼻神経切断術で、必要に応じて鼻中隔矯正術を併せて行います。どの術式が向いているかは、症状の組み合わせと鼻内の状態によって決まります。
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会. 鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(第10版). 2024.
- 松原篤, 坂下雅文, 後藤穣, ほか. 鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年, 2008年との比較): 速報. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2020;123(6):485-490.
- 日本鼻科学会. アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の指針. 2014.
この手術のポイント
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 術式 | 粘膜下下鼻甲介切除術(骨は切除しません)/後鼻神経切断術。症状に応じて選択し、必要に応じて鼻中隔矯正術を併施します |
| 手術時間 | 約30分〜1時間(術式と、片側/両側かによります) |
| 麻酔 | 全身麻酔で行います。麻酔科専門医の管理のもと、眠っている間に手術が終わります |
| 入院 | 不要(日帰り)を予定 |
| 傷の大きさ | 鼻の内側から行うため顔に傷は残りません |
| 社会復帰 | 当院の目安として、デスクワークは翌々日から、立ち仕事・力仕事・運動は1週間の受診のあとからです。手術当日は運転できません。綿が入っている術後1週間は、一時的に鼻づまりが強くなります |
| 費用 | 3割負担で概ね7万〜30万円(術式と片側/両側で大きく変わります)。高額療養費制度の対象になる場合があります |
慢性鼻炎について
なぜ鼻がつまるのですか?
鼻の内側には「鼻甲介」というひだ状の突起が、上・中・下と3段あります。いちばん下で最も大きいのが下鼻甲介です。
下鼻甲介の粘膜は、血管が豊富です。アレルギーや刺激で炎症が起こると、腫れて厚くなります。
この腫れが鼻の通り道をふさぐことが、鼻づまりの主な原因です。炎症が慢性的に続くと、腫れが引きにくい線維化した状態(粘膜の肥厚)になります。そうなると、薬が効きにくくなっていきます。
加えて、鼻の左右を隔てる壁(鼻中隔)が曲がっている場合があります(鼻中隔弯曲)。狭い側は、もともと通り道が細くなっています。広い側では、下鼻甲介が代償的に大きくなります。そのため、両側の鼻づまりを感じることがあります。この場合は、粘膜の治療だけでは十分に改善しにくくなります。そのため、鼻中隔矯正術の併施が検討されます。
アレルギー性鼻炎かどうかはどう調べますか?
まず、症状の出方を詳しくうかがいます(季節性か通年性か、どの環境で悪化するか)。鼻内視鏡で、粘膜の色や腫れ、鼻水の性状を確認します。
あわせて、血液検査(特異的IgE抗体)や皮膚テストで、どの抗原に反応しているかを調べます。対象は、ダニ・ハウスダスト・スギ・ヒノキ・イネ科・ブタクサ・動物のフケなどです。鼻の分泌物中の好酸球を調べる検査も参考になります。
薬ではどのような治療をしますか?
薬は、症状のタイプと重症度に応じて組み合わせます。くしゃみ・鼻水が中心なら、第2世代抗ヒスタミン薬を使います。
鼻づまりが強ければ、鼻噴霧用ステロイドを中心にします。抗ロイコトリエン薬を加えることもあります。
鼻噴霧用ステロイドは、全身への影響が少ない薬です。鼻づまりに対して、最も効果が期待できます。
ただし、毎日続けて初めて効果が安定します。そのため、使い方の指導が重要です。
市販の血管収縮薬入り点鼻薬には注意が必要です。続けて使うと、逆に鼻づまりが悪化するためです(薬剤性鼻炎)。
舌下免疫療法とはどのような治療ですか?
アレルゲンを含む錠剤を毎日舌の下で溶かして服用し、体の反応そのものを変えていく治療です。日本では、スギ花粉とダニに対して保険適用があります。
治療は3〜5年続ける必要があります。治療終了後も、症状の軽減が続くことが期待できます。
根本的な体質改善をめざせる点が特徴です。手術と免疫療法は、目的が異なります。
手術は「今ある鼻の通り道を広げる/鼻水を減らす」治療です。免疫療法は「アレルギーの反応を弱める」治療です。
そのため、併用も可能です。どちらから始めるかは、症状のタイプとライフプランに合わせてご相談します。
どのような手術がありますか?
慢性鼻炎に対する手術は、目的によって大きく2つに分けられます。
- ① 下鼻甲介を内側から小さくする手術(粘膜下下鼻甲介切除術):粘膜を残したまま、内部の腫れた組織を取り除きます。これにより、容積を減らします(骨は切除しません)。粘膜の働き(加湿・線毛輸送)を保ちながら、空気の通り道を確保する方法です。
- ② 鼻水・くしゃみを抑える手術(後鼻神経切断術/経鼻腔的翼突管神経切断術):鼻の奥で鼻腔に入る自律神経(後鼻神経)を、選択的に切断します。これにより、過剰な鼻水の分泌とくしゃみを抑えます。涙の分泌に影響しない選択的な術式が確立されています。薬でも止まらない大量の鼻水に対して、高い効果が報告されています。下鼻甲介の手術と同時に行えば、鼻づまりの改善も同時に得られます。
鼻アレルギー診療ガイドラインでは、手術療法は次のような症例に推奨されています。重症で保存的治療に抵抗する症例や、鼻腔形態の異常を伴う症例です。あわせて、患者さんの生活背景(受験、出産、仕事の繁忙期など)も考慮して適応を判断するとされています。保存的治療とは、薬など手術以外の治療のことです。
手術をすればもう薬はいらなくなりますか?
手術は鼻の通り道を広げ、鼻水の分泌を減らす治療であり、アレルギーの体質そのものを消すものではありません。多くの場合、症状は大きく軽くなり、必要な薬の量や種類は減りますが、花粉の飛散が多い年などには薬の助けが必要になることがあります。「薬をゼロにする」ことよりも、「薬が効く状態にして、生活の支障をなくす」ことを目標にお考えいただくのが現実的です。
手術を迷っている方へ
鼻炎の手術について調べている方の多くが、「本当に受けるべきなのか」「受けて後悔しないか」で迷われています。ここでは、判断の材料になる8つの問いにお答えします。
慢性鼻炎は手術したほうがよいですか?
判断の軸は「症状のタイプ」と「薬を使い切ったか」の2点です。鼻噴霧用ステロイドと抗ヒスタミン薬などを適切に3か月程度以上(季節性なら1シーズン以上)続けても、鼻づまりや鼻水が強く日常生活や睡眠に支障があり、鼻内視鏡やCTで下鼻甲介の肥大や鼻腔形態の問題が確認されているのであれば、手術を検討する段階です。
鼻アレルギー診療ガイドラインでも、手術療法は重症で保存的治療に抵抗する症例や鼻腔形態の異常を伴う症例に推奨されています。薬で十分にコントロールできているのであれば、手術は必要ありません。
手術をしなくても治せますか?
多くの方は、原因の除去と回避に薬物療法を組み合わせることで、症状をコントロールできます。ダニとスギ花粉については、舌下免疫療法という選択肢もあります。
これは体質そのものに働きかける治療です。ただし、下鼻甲介の粘膜が線維化して腫れが引きにくくなっている場合は薬の効きが悪くなり、薬だけで鼻づまりを取ることが難しくなります。
「薬が効かなくなってきた」と感じる段階が、手術を検討する目安のひとつです。
手術しないとどうなりますか?
慢性鼻炎を放置しても、命に関わることはありません。ただし、鼻づまりが続くと睡眠の質が落ちます。
その結果、日中の眠気や集中力の低下を招き、学業や仕事のパフォーマンスが下がります。口呼吸が習慣になると、のどの乾燥、いびき、口臭の原因にもなります。
また、市販の血管収縮薬入り点鼻薬を使い続けると、かえって鼻づまりが悪化する(薬剤性鼻炎)ことがあります。これは慢性鼻炎でよく知られた落とし穴です。
手術を受けて後悔するのは、どんなときですか?
正直にお伝えすると、次の2つの場合です。①「薬をゼロにできる」と期待していた場合 — 手術はアレルギーの体質そのものを消すものではなく、必要な薬は減っても完全になくなるとは限りません。②鼻づまりの主な原因が鼻中隔弯曲や慢性副鼻腔炎だった場合 — 下鼻甲介の処置だけでは十分に改善しません。
当院では術前に、症状の組み合わせ(鼻づまりだけか、鼻水・くしゃみもあるか)と鼻内の状態を見極める予定です。そのうえで、術式ごとに期待できる効果を具体的にお伝えし、選んでいただく予定です。鼻中隔弯曲や慢性副鼻腔炎を併せてお持ちの場合は、鼻中隔矯正術や内視鏡下鼻・副鼻腔手術との同時手術を検討する予定です。
慢性鼻炎の手術の費用はいくらかかりますか?
保険診療の場合、両側の下鼻甲介手術を全身麻酔で行うと3割負担で7万円前後、両側の後鼻神経切断術を組み合わせる場合は20万〜30万円台が目安です。術式によって大きく変わります。高額療養費制度の対象になる場合があり、その際の窓口負担は上限額までにとどまります(上限額は年齢と所得で変わります)。術式ごとの点数は、本ページの「費用の目安」をご覧ください。
手術のあと、仕事は何日休めばよいですか?
当院の目安として、デスクワークは翌々日からです。立ち仕事・力仕事・運動は、1週間の受診で綿を外したあとからです(本ページ「術後の経過と社会復帰の目安」参照)。
手術の翌日と1週間後は、受診が必要です。その日程も含めて、お休みの計画を立ててください。
手術当日は麻酔の影響で、ご自身での運転はできません。公共交通機関か、ご家族の送迎をご利用ください。
綿が入っている1週間は、一時的に鼻づまりが強くなります。綿を外したあとから、通りの変化を実感し始める方が多くなります。
慢性鼻炎の手術に入院は必要ですか?
入院は不要です。当院ではいずれの術式も日帰りでの実施を予定しており、処置の後、経過観察を行ってから帰宅していただきます。ご来院から帰宅まで、おおむね3〜4時間とお考えください。
手術で命に関わることはありますか?
慢性鼻炎に対する手術で、生命に関わる事態が起こることはきわめてまれです。比較的頻度が高いのは、術後の一時的な出血、鼻内のかさぶた、鼻の乾燥感、一時的なにおいの変化です。
まれなものとして、止血処置を要する術後出血、粘膜の癒着、鼻の乾燥感が長引く場合があります。後鼻神経切断術では、まれに一時的な口の中の感覚の変化を感じることがあります。
頻度は低いもののゼロではないため、術前にリスクと期待できる利益を十分ご説明します。そのうえで、手術を決めていただきます。
後鼻神経切断術(経鼻腔的翼突管神経切除術)とは
後鼻神経切断術は、鼻水(鼻漏)とくしゃみを根本から抑えることを目的とした手術です。薬を十分に使っても鼻水が止まらない方のための選択肢です。鼻アレルギー診療ガイドラインにも位置づけられています。保険適用の術式です。診療報酬上の正式名称は経鼻腔的翼突管神経切除術といいます。
どのような手術ですか?
後鼻神経とは、鼻の奥、下鼻甲介の後方から鼻腔に入ってくる自律神経の枝です。この神経は、鼻の分泌腺と血管をコントロールしています。手術では、内視鏡で確認しながら、この神経を選択的に切断します。これにより、過剰な鼻水の分泌とくしゃみの反射が大きく抑えられます。鼻の穴から内視鏡で行うため、顔に傷は残りません。
かつて行われていた翼突管神経(ビディアン神経)切断術は、涙の分泌にも影響しました。現在行われている選択的な後鼻神経切断術では涙腺へ向かう枝を温存するため、涙が出なくなるという副作用を避けられます。
どのような方に行いますか?(当院の基準)
当院では、次の4つの条件にすべて当てはまる方に後鼻神経切断術を行う予定です。ひとつでも当てはまらない場合、この手術は行いません。そのときは、お薬の見直しや下鼻甲介の手術など、ほかの方法をご提案します。
- 18歳以上の方
- 鼻づまりに加えて、鼻水・くしゃみが続いている方
- 鼻に使うステロイドの薬と、眠くなりにくいタイプのアレルギーの飲み薬を3か月以上続けても、仕事や睡眠に支障がある方
- CT検査で、鼻の中にある下鼻甲介(かびこうかい)という部分の骨が厚くなっていると、耳鼻咽喉科医が判断した方(骨の厚さは手術を検討する目安です。手術で骨を切除するわけではありません)
アレルギー検査の結果による違い
- 血液のアレルギー検査(RAST検査)で、ダニかハウスダストのどちらか1つの反応が「クラス3」以上の方には、手術をご提案することが多くなります(クラスは反応の強さを0〜6の7段階で表したものです)。
- それ以外の方(ダニ・ハウスダストの反応がクラス2以下の方、花粉だけに反応する方、寒暖差などアレルギーではない原因で鼻水が出る方)は、診察で耳鼻咽喉科医が手術をするかどうかを判断します。
これらは当院の基準です。条件に当てはまっても、手術で鼻水・くしゃみが完全になくなるとは限りません。
他の医療機関で受けたアレルギー検査やCTの結果は、検査から1か月以内のものをお使いいただけます(CTはCD-Rでお持ちください)。1か月を過ぎている場合は、当院で検査をやり直します。
鼻づまりだけが問題の方は、下鼻甲介の手術だけで対応することもあります。当院では術前に症状の組み合わせと鼻の中の状態を見極めたうえで、術式をご提案する予定です。
下鼻甲介の手術とはどう違うのですか?
ねらう症状が違います。下鼻甲介の手術は腫れて厚くなった組織の容積を減らして「鼻の通り道を広げる」手術で、鼻づまりに効きます。下鼻甲介の粘膜が慢性的に腫れて厚くなった状態は肥厚性鼻炎と呼ばれ、こちらは下鼻甲介そのものを小さくする術式が適しています。一方、後鼻神経切断術は「分泌の指令を断つ」手術で、鼻水とくしゃみに効きます。
| 比較する点 | 下鼻甲介の手術 | 後鼻神経切断術 |
|---|---|---|
| 主にねらう症状 | 鼻づまり | 鼻水・くしゃみ |
| 何をするか | 粘膜の下の腫れた組織を減らし、通り道を広げる(骨は切除しません) | 分泌をつかさどる神経を選択的に切断する |
| 対応する病態 | 肥厚性鼻炎、下鼻甲介肥大 | 薬で止まらない鼻漏、くしゃみ発作 |
| 点数(保険診療) | 5,868〜7,940点 | 30,460点 |
両者は同時に行うことができます。鼻づまりと鼻水の両方が強い方には、下鼻甲介の手術(粘膜下下鼻甲介切除術・骨は切除しません)と後鼻神経切断術を組み合わせることを検討する予定です。鼻中隔弯曲(鼻の左右を仕切る壁の曲がり)も併せてお持ちの場合は、鼻中隔矯正術の同時手術も検討します。
費用はどのくらいですか?(保険診療の場合)
保険診療の場合、経鼻腔的翼突管神経切除術は30,460点です。手術料だけを取り出すと、3割負担で片側あたり91,380円が目安です。
両側に行い、全身麻酔を加えると、総額は20万〜30万円台(保険診療・3割負担)になります。ここに検査・薬剤・材料・診察料などが加わります。
高額療養費制度の対象になる場合があります。その場合、窓口でのお支払いは上限額までにとどまります。上限額は年齢と所得によって大きく変わります。
効果はどのくらい続きますか?合併症はありますか?
切断した神経は再生しにくいため、効果は長く続くとされています。ただし、アレルギーの体質そのものが変わるわけではなく、花粉の飛散が多い年などには薬の助けが必要になることがあります。体質に働きかけたい場合は、舌下免疫療法との組み合わせをご相談ください。
合併症には、術後の一時的な出血、鼻内のかさぶた、鼻の乾燥感があります。まれに、一時的な口の中(口蓋)の感覚の変化や、止血処置が必要な術後出血が起こることがあります。頻度は低いものの、ゼロではありません。そのため、リスクと期待できる利益を術前に十分ご説明します。そのうえで、手術を受けるかどうかを決めていただきます。
慢性鼻炎に関するよくある質問
Q1. 花粉症のシーズン中でも手術は受けられますか?
受けられます。花粉の飛散時期に合わせて手術の時期をずらす必要は、とくにないと考えています。これは当院の耳鼻咽喉科医の方針です。時期についてご心配な点があれば、診察のときにご相談ください。
Q2. 手術のあと、においや鼻の乾きに影響はありませんか?
下鼻甲介の粘膜は、空気を加湿・加温する役割を担っています。そのため、削りすぎると鼻の乾燥感が残ることがあります。
粘膜を残して内部の組織を減らす術式(粘膜下下鼻甲介切除術)は、この点に配慮した方法です。においが鼻づまりのために低下していた場合は、通り道が確保されることで改善が期待できます。
術後1〜2週間はかさぶたが付きます。この間は一時的に、鼻づまりやにおいの変化を感じます。通常は回復していきます。
当院で予定している慢性鼻炎手術の流れ
手術までの流れ
1. 初診・検査
症状の組み合わせ(鼻づまりだけか、鼻水・くしゃみもあるか)をうかがいます。これまでに使ったお薬と、その効果もうかがいます。鼻内視鏡で、下鼻甲介の腫れ具合と鼻中隔の形を確認します。アレルギー検査を行い、必要に応じてCTも行います。
2. 術式の選択と説明
症状のタイプと鼻内の状態をもとに、術式をご提案します。あわせて、期待できる効果、効果の持続期間、麻酔方法、想定される合併症、費用の見込みをご説明します。鼻中隔弯曲や慢性副鼻腔炎も併せてお持ちの場合は、同時手術ができるかどうかも検討します。
3. 術前準備
内服中のお薬を確認します。特に、抗凝固薬・抗血小板薬(血液を固まりにくくする薬)を確認します。必要な場合は、休薬について処方医と調整します。
4. 手術当日
当日は全身麻酔で行います。手術開始のおよそ1時間前にご来院ください。
着替え・点滴・麻酔科医による最終確認をすませます。眠っている間に、鼻の穴から内視鏡で観察しながら処置を行います(手術時間は約30分〜1時間)。
皮膚を切開しないため、顔に傷は残りません。手術が終わったら、リカバリールームで1時間ほど休みます。
麻酔から十分に覚め、出血がないことを確認してから帰宅していただきます。ご来院から帰宅まで、おおむね3〜4時間とお考えください。
当日は麻酔の影響が残ります。そのため、ご自身で自動車・バイク・自転車を運転することはできません。
公共交通機関をご利用いただくか、ご家族の送迎をお願いします。
5. 術後の経過観察・帰宅
出血がないことを確認してから帰宅していただきます。当日は入浴・飲酒・激しい運動を控えてください。鼻を強くかまないようにしてください。
6. 術後の通院
受診の目安は、翌日・1週間後・1〜1.5か月後です。受診時には、綿を外す処置、かさぶたの清掃、経過の確認を行います。飲み薬・点鼻薬と鼻洗浄は、1〜1.5か月の受診まで続けます(続けたほうが楽な方は続けます)。経過がよければ、そこで通院は終わりです。
術後の経過と社会復帰の目安
手術のあと1週間は、かえって鼻がつまったように感じます。止血用の綿とかさぶたがあるためです。翌日の受診で奥側の綿を外すと、圧迫感が軽くなります。1週間の受診で綿をすべて外します。そのあとから、鼻の通りの変化を実感し始める方が多いです。1〜1.5か月で通院の区切りになります。下鼻甲介の手術も後鼻神経切断術も、同じ目安です。
自宅でのケアでは、処方された飲み薬・点鼻薬に加えて、鼻洗浄を毎日続けることがいちばん大切です。鼻洗浄を1日2〜3回きちんと行うと、かさぶたが柔らかくなります。受診のときの処置の痛みも軽くなります。やり方は手術の前に実際にお見せします。
| 時期 | できること・お願いしたいこと |
|---|---|
| 手術当日 | その日のうちに帰宅(ご自身での運転はできません)。鼻の中には止血用の綿が入っています。痛み止めは当日は決まった時間に飲んでいただきます。シャワー・入浴は当日はお休みです |
| 翌日(受診1回目) | 鼻の奥側の綿を外します(圧迫感がかなり軽くなります)。この日から鼻洗浄を1日2〜3回始めます。受診のあとは歩行・外出ができます。デスクワークは翌々日から再開できます。夜からぬるめのシャワーができます。鼻の入口には綿球を入れておいていただきます |
| 翌日〜1週間 | 鼻はかまないでください(垂れてきたら軽くぬぐう。くしゃみは口を開けて)。1週間の受診までは、前かがみ・重い物を持つ・運動・湯船・お酒・たばこ・自転車や車の運転・立ち仕事を控えます。痛み止めは痛いときだけ(1週間弱で不要になる方がほとんど)。次の症状は、この時期の正常な経過です:少量の出血が混じった鼻汁、鼻づまり、頭が重い感じ、においの低下、歯の違和感 |
| 1週間(受診2回目) | 残りの綿をすべて外し、かさぶたの処置をします。この受診のあとから、次のことを再開できます。鼻をかむ、湯船やサウナ、通常の運動と高負荷の運動、水泳、運転、立ち仕事や力仕事、お酒、たばこです。鼻づまりや鼻汁の変化を実感し始めるのも、このころです。においは、受診のあと徐々に戻っていきます |
| 2週間ごろ〜 | 飛行機(気圧の変化)は術後2週間ごろから。搭乗の予定がある方は前もってお伝えください |
| 1〜1.5か月(受診3回目) | 飲み薬・点鼻薬は通常ここまで(続けたほうが楽な方は続けます)。鼻洗浄も1か月半を目安に終えます。経過がよければ通院はここで終わりです |
上の表は、当院の目安です。当院の耳鼻咽喉科医が通常ご説明している内容をもとにしています。回復には個人差があります。実際の時期は、診察で鼻の中を確認したうえで、一人ひとりにお伝えする予定です。
| 手術のあとの症状 | 受け止め方 |
|---|---|
| 正常な経過として前もってお伝えしておくもの | 鼻づまり(止血用の綿と腫れによるもの。綿を外し、腫れが引くにつれて楽になります)/血の混じった鼻汁/頭が重い感じ/においがわかりにくい(1週間の受診まで続くことがあり、そのあと徐々に戻ります)/歯の違和感 |
| すぐに当院へ連絡していただきたいもの | 出血が明らかに増えたとき。目安は、鼻の入口に入れた綿球を5分おきに取り替えなければならない状態が30分以上続く場合です。診療時間外の連絡方法は手術のときにお渡しします |
合併症について
比較的よくみられるのは、術後の一時的な出血、鼻内のかさぶた、鼻の乾燥感、一時的なにおいの変化です。まれなものとして、術後出血が続いて止血処置が必要になる場合、粘膜の癒着(粘膜どうしがくっつくこと)、鼻の乾燥感が長引く場合などがあります。
後鼻神経切断術では、まれに一時的な口の中の感覚の変化や鼻の乾燥を感じることがあります。いずれもリスクと利益を術前に十分ご説明します。
慢性鼻炎手術の費用と入院期間
入院は不要です(日帰り手術)
慢性鼻炎に対する手術は、いずれも日帰りでの実施を予定しています。処置の後、経過観察を行ってから帰宅していただきます。
費用の目安(保険診療の場合)
慢性鼻炎の手術は、術式によって点数が大きく異なります。下の表は手術料だけを取り出した目安です。金額は3割負担の場合です。とくに断りのないものは、片側あたりの金額です。両側に行う場合は、原則としてこの2倍になります。
| 術式 | 点数 | 3割負担 |
|---|---|---|
| 内視鏡下鼻腔手術Ⅰ型(下鼻甲介手術) | 7,940点 | 23,820円 |
| 経鼻腔的翼突管神経切除術(後鼻神経切断術) | 30,460点 | 91,380円 |
| 鼻中隔矯正術(同時に行う場合) | 8,230点 | 24,690円 |
| 全身麻酔+麻酔管理料(Ⅰ) | 7,050点 | 21,150円 |
たとえば両側の下鼻甲介手術を全身麻酔で行う場合は、3割負担で7万円前後です。両側の後鼻神経切断術を組み合わせる場合は、20万〜30万円台になります。ここに検査・薬剤・材料・診察料などが加わります。
高額療養費制度で自己負担は大きく下がります
1か月(暦月)の自己負担が上限額を超えた場合、超えた分は高額療養費制度で払い戻されます。厚生労働省は、令和8年8月診療分からの制度について次のように示しています。
70歳未満で年収約370万〜510万円の方の場合、医療費が100万円かかったときの自己負担は約9.3万円までに抑えられます。全身麻酔で複数の鼻手術を同時に行う場合は、この水準に達することが多いです。
そのため、実際の窓口でのお支払いは9万円前後にとどまる見込みです。マイナンバーカードを健康保険証として利用すると、窓口でのお支払いを最初から上限額までにとどめられます。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておいても同じです。上限額は年齢と所得で変わります。詳しくはご加入の健康保険にご確認ください。
※ 金額はいずれも目安です。確定した費用は術式が決まった段階で個別にお見積もりをお伝えします。当院の料金体系は保険診療開始(2027年1月5日予定)に合わせて確定します。点数は令和8年度診療報酬点数表によります。
参考文献
参考文献(8件)を読む
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会. 鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(第10版). 2024.(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 承認)
- 松原篤, 坂下雅文, 後藤穣, ほか. 鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年, 2008年との比較): 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として. 日本耳鼻咽喉科学会会報. 2020;123(6):485-490.
- 太田伸男. 後鼻神経切断術. 日本鼻科学会会誌. 2014;53(1).
- 日本鼻科学会. アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の指針. 2014.
- 日本鼻科学会. アレルギー性鼻炎に対する免疫療法の指針 2011年版. 2012.
- Bousquet J, Khaltaev N, Cruz AA, et al. Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma (ARIA) 2008 update. Allergy. 2008;63(Suppl 86):8-160. doi:10.1111/j.1398-9995.2007.01620.x
- 厚生労働省. 令和8年度診療報酬点数表(医科)第2章 特掲診療料 第10部 手術/第11部 麻酔.
- 厚生労働省. 高額療養費制度を利用される皆さまへ(令和8年8月診療分からの上限額). 2026年7月31日更新.
慢性的な鼻づまりや鼻水でお困りの方は、外来でお気軽にご相談ください。まず、症状のタイプを見極めます。薬による治療を十分に行ったうえで、手術が向いているかどうかを一緒に検討します。